ふたりのための幸せ計画。03

昼は図書委員会の話をしたいからと皆で集まりながらも雷蔵とばかり話し、放課後はウサギを見せてもらうと生物小屋で八左ヱ門とばかり話し、他の休憩時間は私と話して女子や男子に囲まれる勘右衛門には気付かぬ振り。また別の日には豆腐のカップケーキを兵助と食べてと渡したり、雷蔵と本の貸し借りをしたり、脱走した生物探しを手伝ったり。
そんな風に日々を過ごしてやってきた金曜日、みょうじはずぅんと重い空気を纏って項垂れていた。理由は当然勘右衛門だろうが、「どうした?」訊いてやるのが友人というものだろう。

「どうしたって言われても……今までのことって、本当に意味あるの?私が勘ちゃんと話せなくて寂しいんだけど……」
「当然あるとも。ああ、勘右衛門だ」
「あっ」

廊下に珍しくひとりのその姿を見つけて教えてやると、途端に顔を上げて目を輝かす。手を振れば振り返されるそれに勘右衛門も嬉しそうだが、あいつも何処か元気がない。もうそろそろだろう、私は最後の一押しをすることにした。
席を立とうしたみょうじを引き留める。不満をありありと浮かべているが、そんなのは知ったことか。

「こっちを向いて、なるべく楽しそうに私と会話をする振りをしろ」
「え?せっかく勘ちゃんがひとりでいるのに……」
「勘右衛門に傍にいて欲しいんだろう?」

あと少しの辛抱だ、と。おそらく雷蔵に見られたら怒られるだろう笑い方をして私が囁けば、みょうじは少し戸惑いを見せながらも席に腰を落ち着けた。
勘右衛門を見ないようにするのは覚悟が揺らぐからだろうが、かえって好都合だ。勘右衛門がひどくショックを受けたような顔をして、それからすぐに教室へと入ってきた。
女子に掛けられた声も、男子に投げられた挨拶も、取り合わずに一直線に、みょうじのもとへ。

「なまえ!」
「か、勘ちゃん?」
「ちょっと、こっち、来て!」

みょうじの腕を掴み、私を一睨みして教室を出ていく勘右衛門に、教室中がぽかんとする。何となく察しているのだろう雷蔵と、後から顔を覗かせた兵助だけが仕方がなさそうに笑っていた。
「……え、あれ、どういうこと?」私たちの中で唯一分かっていない八左ヱ門に、私は慰めるようにその肩を叩いてやる。

「あいつらはこれから青春を謳歌するための儀式を始めるんだ」
「え?」
「分かりやすく言うと、愛の告白」

そう告げて、さあ出歯亀をしにいこうと教室を出た直後響き渡る驚きの声に、噂はすぐ広がるだろうとほくそ笑む。
これで勘右衛門を囲む女子も減るだろうし、男もみょうじに気を使う筈だ。「やっとだな」いつの間にか隣にいた兵助がぽつりと呟く。ああ、本当に。わざわざこんなことをしないと想いも告げられないとはどうしようもない奴等だ。




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