ふたりのための幸せ計画。02

一組の教室に勘右衛門がいることを確認して、みょうじにゴーサインを出す。意気込むみょうじはこくりと頷いてゆっくりと一組に向かい、出入口から中を窺った。
「あっ、なまえ」それにすぐ気付いた勘右衛門が話していた兵助を置いてみょうじの名を呼んだ。委員会でおやつを前にしたときくらいきらきらした目で。お前みょうじとおやつを同等に見てるのかと突っ込みたかったけど今回の目的のために口を出すわけにもいかないからぐっと押し込んだ。
駆け寄る勘右衛門に、みょうじはみょうじでふにゃふにゃした顔で笑う。恋人関係にはない筈なのに誰がどう見てもバカップルだ。しかし今日の目的はバカップル化じゃない。さあ行けと念じれば、それが届いたかのように声を発する。

「おはよ、勘ちゃん。兵助いる?」
「いらない」
「勘右衛門がひどい」
「あはは、おはよう、兵助。昨日言ってたやつ持ってきたよ」
「ありがとう。なるべく早く返す」
「いつでもいいよー」

笑顔で吐き捨てた勘右衛門に兵助は特に傷ついた様子もなく、みょうじに挨拶を返した。そしてみょうじが兵助に袋を差し出す。不思議そうな勘右衛門を置いて、二人で会話を始めた。完全に置いてきぼりにしては勘右衛門に拗ねるという選択肢を与えてしまうから、時折同意を求めるようにしながら。
みょうじひとりならばなかなかうまくいかなかっただろうが、事情を知っている兵助が流れを誘導しているらしい。やはり兵助には協力要請して正解だった。八左ヱ門じゃあこうはいくまい。

「あ、そろそろ戻らないと。じゃあねー」
「え、あっ、なまえ?」
「勘ちゃんも、授業始まっちゃうから、また後でね」

勘右衛門の困惑した表情を見るに、今回は成功と言っていいだろう。しかし油断は禁物、次も気を引き締めてやってもらわねば。
先に教室に戻るとすぐにみょうじも帰ってきた。「本当にこんなのでいいの?」そう訊くみょうじは少し疑うような目をしているが、まぁ見ていろと私は笑う。作戦はまだまだ始まったばかりなのだ。




目次
×
- ナノ -