教室の真ん中 04

「八左ヱ門の尻拭いやフォローをしてやったのに、全て杞憂だったとは」
「でも良かったじゃないか。ハチの想いは実ったわけだし」
「ふふ、昨日はお世話になりました」

私たちのしたことは無駄だったわけか、と面白くなさそうな顔をする鉢屋くんと、それに苦笑している不破くんに挨拶をする。昨日の放課後の出来事は、既に竹谷くんから聞いているんだろう。鉢屋くんの様子を見るにきっと予想外だったのだ、なんて思っていると、振られたハチを慰める計画を立てていたんだ、と不破くんに耳打ちされた。本当にふたりは友達想いらしい。

「しかも翌日から一緒に登校とは、見せつけてくれる」
「たまたま下で会っただけなんだけど……」

下足場で偶然会って、一緒に教室までやってきた筈の竹谷くんは、一瞬のうちにクラスの男子たちに囲まれて廊下に戻されてしまった。がやがやと騒がしい原因はもしかしなくても私とのことだろう。時折不穏な単語が聞こえてくるが、それも含めて祝福されているのだと思う。多分。

「ハチはある意味で英雄だからね」
「そんないい意味でもないが、な」

人前での告白だなんて、褒められることではないけど勇気が必要には違いない。そういう意味だろうか、なんて推測を立てる。答えはきっと、分かることはないだろう。
そのまま不破くんたちと話していると、一段落着いたのか男子の集団と彼らに揉みくちゃにされた竹谷くんが教室に戻ってきた。ひどく草臥れた様子の竹谷くんが集団の中から押し出されて、私と向き合う形になる。
視線が交われば、なんだか気恥ずかしくて言葉が出ない。見つめあってるんじゃない、と誰かの声が飛んでくるけどすごく遠く感じる。照れくさそうに笑う竹谷くんに、好きだな、と思った。竹谷くんの笑顔が好きで、竹谷くんの明るい性格が好きで、思い出したらきりがない。私も自然と浮かぶ笑顔を押さえることも出来なくて、随分ゆるんだ顔をしているのだろう。

「竹谷くん」

竹谷くんの名前を呼べば、授業中でもないのに教室中がしぃんと静まる。不思議な光景。竹谷くんが首を傾げて私の言葉を促すと、するりとその言葉が流れ落ちた。

「竹谷くんが好き、です」

一拍置いてからの盛大な拍手と歓声に顔が真っ赤になってしまうのは、お互い様だ。


 

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