教室の真ん中 03

まだ生物小屋の辺りにいるかもしれない竹谷くんを探しに行こうかと、そう思ったときだ。

「みょうじ、さん……っ!」

ぴしゃん、と。
勢いよく開かれたドアが、跳ね返って音を立てる。そのドアにもたれ掛かるようにして私の名前を呼んだのは、肩で息をする竹谷くんだった。
不破くんか鉢屋くんが教えたのか、本当に急いで来たらしい彼はもしかしなくても私に会いに来たんだろう。「さぶろ、から、めーる、」どれだけ走ったのかなかなか呼吸の整わない竹谷くんに椅子を勧めて、私もドアを閉めてからその隣の席に腰を下ろした。
どきどきとうるさいくらいに心臓が跳ねている。向かい合って座ると竹谷くんと視線が合って、何故だか緊張して目を逸らしたくなった。顔に熱が集まっても夕日のせいには出来ないだろう。竹谷くんが真っ赤なのも、そうだとは思えないから。

「みょうじさん、もう一回、聞いてもらっていいか?」

はあ、と大きく深呼吸をしてから、竹谷くんがそう訊いてきた。私も知らず知らずに息を飲んでゆっくりと頷く。さんきゅ、と竹谷くんが表情を緩めて、それからすぐに真剣なものに戻った。

「えっと……みょうじさんのことが、好きです。最初は可愛いなって思って、真面目で大人しいのかと思ってたけど、話をしたら冗談も言う奴で、楽しくて、それに、その、笑ってる顔はもっと可愛くて。気が付いたらみょうじさんのことを目で追うようになってて、三郎たちに相談したら恋だって言われて……好きなのかって思ったら、止まらなくて、」

纏まってはいなくて、その分真っ直ぐな言葉。竹谷くんのはにかんだ顔が眩しく思う。きっとあのふたりから幾つか話を聞いていなかったら、今のようなほんの少しの余裕も持てずに、頭が沸騰してしまっていたかもしれない。今でも充分に、逆上せそうなのに。

「そ、それで、教室であんな……ことを……」
「あれは、びっくりした」
「わ、悪い」

さっきのことを持ち出した竹谷くんの語尾がもごもごと篭ったものになり、気まずそうに視線を逸らす。きっとあれは勢いで言ってしまったんだろう。私は竹谷くんの様子についつい笑ってしまった。ますます居たたまれなさそうにする竹谷くんに、首を振って私は言う。

「びっくりしたけど、嬉しかったよ」

そりゃあクラスの皆の前で告白されたのは恥ずかしかったけど、それとこれとは話が別だ。竹谷くんの告白は、ただただ純粋に嬉しかった。
ぽかんとする竹谷くんに、私は言おうと思っていたことを伝えるために再び口を開く。思いのままに話し出してもうまく伝えられる気がしないから、一番伝えたい言葉をはじめに。

「私も、竹谷くんが好きです」




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