君への距離 01

(……あ)

登校中、似通ったふたつの後ろ姿を見つけて、私は歩く速度をほんの少しだけ落とした。談笑しながらゆっくり歩くふたりに追いつかないように。
身振り手振りを交えて話すのが鉢屋くん、頷いてそれを聞いているのが不破くん。双子もびっくりなくらい良く似たふたりの、判別方法のひとつがそれだ。それでも、互いの真似をしたら仲良しの竹谷くんでも分からないと聞いたことがあるから、確かなものではないけれど。
ふたりとは同じクラスだけど、それほど親しくない。隣の席の不破くんとは何度か話をしたことがあるけどそれでも顔見知りといったところだと思う。だからこれ以上近づくことはしない。
近づけば不破くんと簡単な挨拶くらい交わせるだろうけど、追いついた私は彼らを追い抜いてしまわないといけない。そうするよりもこのまま彼らの背を、彼を見つめていたかった。

私は、鉢屋くんが好き。

クラスの中心にいて、皆に囲まれて、友達想いで。そんな鉢屋くんを、いつの間にか好きになっていた。
誰にも露呈したことのないこの想いは、きっとそういう話に敏感な友達も気づいていない。不破くんと話してるとにやにやしてこっちを見ていることがあったから、きっと勘違いしてるんだろう。この想いを誰かに話すつもりもないから、勘違いさせたままでもいいかと思う。
この距離でいい。見ているだけでいい。親しくなれることはないけれど、傷つくこともないから。
学校に着いて、自分の下駄箱を探す。クラス別の下駄箱には上履きに履き替えたふたりの姿。

「おはよう、みょうじさん」
「おはよう、不破くん。……鉢屋くんもおはよう」
「おう」

これくらいの距離で、ちょうどいい。


 

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