夕風吹いて 06

減給ものだろうかと、なまえを背負い歩く尊奈門は沈みつつある陽を見て考えた。なまえを学園まで送って、それからタソガレドキへ戻ったときにはすっかり夜になってしまうだろう。特に仕事はなかった筈だがそれとこれとは話が別だ。減給で済めばいい方かもしれない。腰を抜かせて歩けない娘を学園まで送ってきたなんて言い訳にもならないんじゃないだろうか。
そんな尊奈門の心情を知らないなまえはふんふんと鼻歌混じりに「しょせんさん」声を掛ける。尊奈門が振り返ることなく諸泉だと訂正すると、「ごめんなさい」謝りながらも明るい調子で続けた。

「私、諸泉さんには嫌われてるものと思ってました」
「なっ……?!」
「でも、諸泉さんは優しい人なんですね」

言葉は厳しかったりするけれど、いつだって私のことを助けてくれるじゃないですか。そんななまえの言葉をいつものように否定しようと尊奈門は肩越しに振り返り、けれど言葉が喉につっかえた。

「これからも宜しくお願いします」

なまえが浮かべるはいつかと同じ笑顔。尊奈門は顔に熱が集まるのを感じて、すぐに進行方向へと向き直る。別に見惚れたわけじゃない、顔が赤いのは夕陽のせいだ。誰ともなしに言い訳を考えながら足を速める。
それでも、と尊奈門は「……」背中の少女に届かない程度に呟いた。

「何か言いました?」
「何でもない!」

首を傾げるなまえに、尊奈門は声を荒らげて否定する。納得しないなまえは何度か尋ね、けれど学園に着いても尊奈門が口を割ることはなかった。



『私が傍にいるときなら助けてやらなくはない』彼女自身にその言葉を届けられる日は、もう少しばかり先である。


end


 

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