夕風吹いて 05

呆然と座り込むなまえの様子に、尊奈門は眉間の皺を濃くする。「大丈夫か」声を掛ければなまえは弾かれたように顔をあげ、すぐにがばりと頭を下げた。

「あ、ありがとう、ございました」
「だから言っただろう。ろくな男は寄ってこないと」
「あはは……」

「まったく、」尊奈門は仰々しい溜め息を吐き、周りに倒れ伏す男達を一瞥した。死んではいない、気を失っているだけのそれらを築き上げたのは尊奈門だ。
男達の中にはなまえと並んでいた男も紛れている。話は単純で、男はなまえを騙し男の仲間の元へ連れていき拐かそうとした。そしてそれを止めに入ったのが尊奈門だった、それだけのこと。

「それでも忍者のたまごか」
「……すみません」

しゅんとするなまえに、尊奈門は舌打ちしそうになるのをぐっと堪えた。これ以上追い討ちをかけるつもりはない。
厄介なことになるとは思っていたのだ。落ち着いた色の着物も、背伸びをするような化粧も、なまえを良家の娘のように見せた。そんな娘に声を掛けるのは余程身の程を知らないか、何かを企む輩か、どちらにしろろくな男ではあるまいと、思っていた。
それを伝えてやればよかったのか。忍たまの詰問など無視をして、捕まえてでも言ってやれば、こうも怯えさせることはなかったのだろうか。あのとき哀しそうな顔をさせることはなかったのだろうか。

「……悪かったな」
「え?」
「紅をもう少し薄い色に変えて、着物はもう少し華やかな色にしろ。そうしたら声もかけられやすい筈だ。まともな男に」

けれど結果論だと、尊奈門は頭を振って思考を払った。そもそもそれを言ってやるべきなのは忍術学園の誰かなのだ。助言など私の役割じゃないと思いながらもそれを口にし、しかしぱちぱちと目を瞬かすなまえの表情はまだ明るくない。

「それに、その方が、お前らしい」

だからほんの少しの言葉を足した。
慰めでも助言でもなく、しかし間違いなく尊奈門の本心である言葉を。
途端にぽかんとするなまえから、尊奈門は顔を背ける。柄にもないことを言ってしまったじゃないかと恥や後悔や怒りがまぜこぜになって沸き上がり、誰にぶつけられるわけもなく胸に溜まる。

「本当ですか?」
「この状況で嘘など言うものか」
「……ありがとうございます」

それでも、横目で確認したなまえははにかんで頬を赤らめたから。
尊奈門は息を吐く。気取られない程度に、しかし深いそれは呆れや気苦労からのものではなく、確かに安堵からのものだった。




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