夕風吹いて 01

尊奈門が少女を見つけたのは、とある町からの帰り道にあった一本杉の傍だった。
低い岩に腰掛ける少女に見覚えがある気がしてほんの少し笠を上げれば、あ、と少女が声を上げる。目が合った少女はぱっと表情を明るくして、尊奈門は確かと記憶を遡った。

「しょせんさん!」
「諸泉、だ!」
「あれっ、ごめんなさい」

こんなふざけたことを言うのは忍術学園の生徒に違いない。そういえば以前組頭を迎えに上がったときに見たような覚えがあった気がする。きっと組頭が贔屓している保健委員の一員だろう。足を止めるんじゃなかったと、そこまで考えて尊奈門は首を振る。後悔しても後の祭りだ。

「……お前、学園の生徒だな。こんなところで何をしているんだ」
「あはははは……」

目を逸らして笑う少女にやはり厄介だと思いながら、向き直って少女を見下ろす尊奈門は、なんだかんだ言いつつも面倒見がいいのだろう。



「足を挫いて歩けないなんて、それでも、忍者のたまごか!」
「ごもっともです……」

しゅんとする少女の顔を、しかし尊奈門は見ることが出来ない。それもそのはず尊奈門は彼女を背負っていた。怒鳴った通り身動きの取れなかった少女を見かねて忍術学園まで送ることにしたからである。上司のお気に入りを捨て置いたと知られては後で何と言われるか分からないから、と自分に言い聞かせて。

「でも、諸泉さんが通り掛かってくれて助かりました」
「言っておくが私はお前たちの敵だからな。組頭がああだから仕方なく……!」
「それでも、ありがとうございます」

懐かれるのをよしとしているわけではないと、肩越しに無理矢理振り返る尊奈門の目に映った少女の笑顔。
どくんと胸が一際大きく跳ねたのは、つまりそういうこと。


 

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