六はと味噌汁

「いいかい留三郎、味噌っていうのは素晴らしい食材なんだ。タンパク質もをはじめ血行をよくしてくれるビタミンEに神経を修復してくれるビタミンB12、老化防止作用のあるコリンやコレステロール値を下げてくれるレシチン、さらに現代人に不足しがちなカルシウムカリウムマグネシウム」
「まぁ待て伊作、味噌汁がからだにいいのはよーく分かった。それで、何が言いたい?」
「具はやっぱり豆腐とネギがいいと思うんだよね」
「そうかお前の主張は分かった」
「留三郎も何か言いたいみたいだね」
「俺は油揚げと大根がいい」
「……」
「……」
「譲る気はないのかい」
「それはこっちの台詞だ」
「……」
「……」
「……じゃんけんは僕に不利だと思うんだ。ほら、不運の代名詞扱いされてる僕だし。留三郎はそんな自分に優位すぎる勝負は持ち出さないよね」
「お前の不運っぷりは誰より知ってるからな、当然だ。逆に訊くがお前はどんな勝負がいいんだ?薬品の名前当てなんてお前以外分かるわけない勝負じゃなかったらそれでいいぞ」



味噌汁の具を決めるのにどれだけ時間がかかるのか。残された私は意味もなく冷蔵庫を開け閉めする。ふたりがぐだぐだと話し合いをしてるのは私のせいだから文句も言いづらい。
事のあらましを簡単に説明すると、三人で飲み会→オールで騒ぐ→いつの間にか寝てて朝でした→「ごはんと味噌汁くらいなら出せるから食べてく?」→「味噌汁の具は何がいい?」→今に至る、というわけだった。
まさか味噌汁の具でこんなことになるとは思わなかった私はどうすればいいのか。譲り合えよ親友なんでしょなんなの味噌汁にそんな思い入れがあるの?ダシを取ってから放置されてる鍋が可哀想だ。
せめて食材が足りなければよかったのに。ふたりの主張する具はすべて揃っていた。長ネギも大根も買ったばかりで(豆腐と油揚げは後輩の久々知にもらった)、しかも冷蔵庫にあることは確認されてしまっている。

「しりとりにしようか」
「いいぞ。ただし化学物質や化学式、薬の名称は禁止だ」
「なんで?!」
「お前に有利すぎるだろ!しかも○○酸××とか言われても本当にあるのか判断がつかん」
「くっ……じゃあ漫画やゲームの登場人物も禁止だからね!」
「モンスターは?」
「モンスターなら……いや、なし!危ない騙されるところだった……あのシリーズもう600だか700だかいるじゃないか!」

まだ決着がつく様子はない。というか勝負が始まる気配すらない。なんでもいいから早くしてくれないかな、お腹空いた。もう勝手に作ってしまおうか。

……それがいいな、うん。

いつまでもぐだぐだしてる彼らが悪いのだ。
未だに勝負を始めない彼らを横目に、私は大根や油揚げを切っていく。私の気分はこの組合わせだった。彼らが私に意見を求めてくれたらあっさり決まったのに。
できあがって食べ終えてもまだ終わってなかったら、豆腐と長ネギも追加してあげよう。そうすれば伊作からも文句は出ない筈だ。風味が飛ぶとかそんなの二日酔いには微々たる違いでしかない。そういえばワカメもあったしなめこもあったし、味噌汁の具になるものが何故かたくさんある。いっそのこと冷蔵庫の余り物も全部入れてあげようか。そう決めた私は、自覚はないけど結構怒ってたのかもしれない。
とりあえず放置はいただけないな、うん。


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