探してる作兵衛の話

「作兵衛?何を探してるんだ?」

藤内の声に、孫兵はジュンコを見つめていた目をそっと移した。少し離れた先には藤内と作兵衛だけでなく、作兵衛のすぐ傍には迷子のふたりもいる。作兵衛が迷子の左門や三之助を探すのはいつものことだが、それ以外を探していることはあまり見掛けない。忘れ物や落とし物も滅多にしないしっかり者だと友人たちは知っていた。だから藤内もそれを不思議に思ったのだろうなと、孫兵はジュンコの頭を指先で撫でながら考える。
けれどあまり見掛けないだけで、作兵衛はよく誰かを探していると孫兵は知っていた。ジュンコや委員会の飼育する生物たちを探している間に見掛けるのだ。日の傾く頃合いが多い印象を受けるが、何がきっかけとなっているのかまでは分からない。ただ辺りをきょろきょろと見回し、静かに誰かを探している。泣きそうな、苦しそうな顔をして。

「……いや、別に。ちょっとぼーっとしてただけだ」
「そう?そうは見えなかったけど……」
「本当にぼーっとしてただけだって」

作兵衛に自覚はないらしい。孫兵の知る限り左門が二度、三之助が一度、数馬が三度、孫兵も一度訊いたことがあるけれど、反応はいつも変わらない。さっきまでの表情も忘れてしまって、いつものようにしっかりと笑って見せる。

「はやいとこ左門を委員会に連れていかねぇと。藤内は勉強か?」
「あ、ああ。三之助はどうするんだ?」
「俺は長屋に戻るつもりなんだけど、作兵衛が用具倉庫の方に連れていこうとするんだ」
「長屋があっちだって何度言や分かるんだ!」

元通りになった作兵衛に、興味を失ったように孫兵は視線をジュンコに戻した。ジュンコの大きな瞳が孫兵を映す。きらきらとした瞳に映る自分の姿には興味はないが、その自分と同じ目をする誰かを孫兵は知っていた。きっと今も近くにいるのだろう。
孫兵の思考に気づいたかのようにジュンコがちらりと顔を横に動かす。その視線の先にひとりの少女がいるのに気づきながらも、孫兵はただジュンコの顔をそっと自身へ向けさせた。



(転生室町のお話になる予定だったけど力尽きた)


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