エイプリルフール?

※エイプリルフールという時期ネタを装った何か
※つまりエイプリルフール関係ない
※今ハマってるものに影響されすぎている
※大体雷蔵



「この年齢にもなって探偵ごっこをすることになるとはさすがの私も思わなかったよ」

鉢屋三郎はそう言うと肩を竦めてみせた。行動ひとつひとつがわざとらしいなと、不破雷蔵は苦笑しながらそれを見守る。集められた人々は顔をしかめたり困惑を隠せないでいた。
その反応は実に正しい。名探偵然としている三郎は、実際のところ推理オタクでも名探偵の孫でもない、ただの高校生なのだ。事件に、殺人事件に巻き込まれたのはこれが初めてであった。容疑者となってしまった人々の中には三郎の堂々とした振る舞いに『自分が知らないだけで実は数々の難事件を解決してきた名探偵なのでは?』などと勘違いしている者もいるかもしれない。しかしやはり彼は初めて事件に遭遇した、ただの高校生であった。
彼が探偵ならば自分は助手だろうかと不破雷蔵は考え、それはないなとつい苦笑する。正直なところ自分は何もしていないのだ、捜査を手伝ったり思わぬところでヒントとなる発言をしたりなどは一切なかった。それをしていたとすれば、惨劇の舞台となったこの屋敷の使用人朝子だろう。彼女は三郎と雷蔵の幼なじみであり、久方ぶりに再会した少女だった。家の事情とやらで若くして使用人として働いていた彼女は、屋敷の主人たちの死に動揺していたものの捜査には協力的であった。顔を真っ青にしながらも屋敷の案内や説明を施してくれた彼女は使用人として素晴らしく、少女として優しかった。そんな彼女は両手をぎゅうと握り締めて三郎の話を聞いている。亡くなった主人たちが帰ってくるわけではない、犯人に復讐ができるわけでもない、けれど知ろうと願わずにはいられないのだろう。早く真実が明らかになり、朝子の心が安らかなものになればいいと、雷蔵は願った。

「犯人は、朝子、君だろう」

だから雷蔵は、三郎の言葉が理解できなかった。
三郎の推理は丁寧で分かりやすく、目の前で見ていたかのように理解できた。そのトリックを行うことができたのもただひとりだと理解できた。しかしその名前が出てくることに、どうしても、納得ができなかった。

「ま、待ってよ、三郎。どうして朝子が、そんなことをするんだ」
「私だってそう思いたくはない。けれど朝子しかいないんだよ、雷蔵」
「で、でも、そうだ真犯人が朝子に濡れ衣を着せようと!」
「雷蔵、いいの」

彼女が犯人なわけがないと雷蔵は声を張り上げるが、それを留めたのは朝子本人だった。握り締めていた両手は開かれ、エプロンのリボンをほどく。真っ黒なワンピースは喪服のようにも見えた。
動機らしい過去のことを朝子は語るが、雷蔵の耳には入らなかった。どうしてそんなことが有り得るのかと、朝子の肩の荷が降りたような安心が滲む表情を見つめていた。

「三郎、貴方に会わなければよかった」
「私も、同感だ」

泣きそうな顔で呟かれた朝子の言葉に、三郎は視線を一度下げ、また彼女を見つめて笑いながら答えた。ぼんやりと眺めていた雷蔵は、それが三郎が嘘を吐くときの癖だと気付く。何故そんな嘘を吐くのか。そう問い詰めたいという思いは、朝子が微笑んだことで消え去ってしまった。
朝子は優しい少女だった。思い出すのは幼い頃の別れだ。遠くへ行ってしまう朝子が車に乗り込む寸前泣きそうな顔で言った言葉はふたりを傷つけるものだった。別れを悲しむくらいならば、嫌な思い出だったと蓋をしてもらいたかったのだろうと今では分かっていた。不器用な優しさを持つ少女は、その本質は変わっていなかったのだろう。
朝子が何を思い殺人に至ったのか、雷蔵には分からない。

「雷蔵、貴方にもね」

しかしながら、きっとその言葉だけは嘘なのだと、雷蔵は確信していた。


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