存在証明(その後)

・短編夢「存在証明」のちょっと後の話
・伊作が優しくないというかひどいというか
・仲良しな六はが好きな方はご注意を
・やっばり幸せな話ではない





留三郎が現れた日は、決まって朝子から連絡がくる。僕は握り締めていた携帯電話が立てる音を三秒聞いて、通話ボタンを押した。耳に当てると彼女の声が元気かと問い掛ける。元気だよ、ついさっきぶつけてしまった足の小指以外は、と答えれば、彼女はくすくすと笑い声を上げた。

「君の方こそ元気にしてた?……うん、うん……うん、来たよ。レポートが風に飛ばされてぐちゃぐちゃになったところを見られちゃって。……うん、あんまり笑わないでよ……ふふ、そうだね、うん」

喋り続ける朝子に、僕は相槌を打つことが殆どだ。朝子が喋らなかったらきっと僕が話し続けていたんだろう。その理由を僕らは分かっている。ただ思い出してしまった胸の隙間を、誤魔化そうとしているだけの行為だ。

僕の親友は、僕らの前にほんのたまにだけ姿を見せる。僕のところに先に来ることもあれば、朝子を先に訪れることもある。優しい彼はどちらか片方にだけ姿を見せるなんてことはしない。僕らふたりを大切に思ってくれている。とても優しい男だ。

ただそれが、少し、つらい。

留三郎が現れる限り、僕らはいつまでも彼を忘れることはできない。忘れたいわけじゃない、とても大切な友人、だけど胸に空いた穴はいつまでも空いたまま。何かで隠すことも埋めることもできない穴は、彼を置いて逝ってしまったことを責め立てるように感じていた。留三郎はそんなことを責めるような男じゃないと分かっていても、ただただ僕にはつらく感じてしまっていた。

「……うん?うん、大丈夫」

いっそのこと、もう彼が姿を現さなかったらいいのに。そう考えて、そうなってしまったら朝子も僕自身も悲しむだろうと予想して。
やっぱりどうしようもないこの思いに、僕はただ今日もひとりじゃないことだけを喜ぶことにした。


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