押し入れから孫次郎

「こんにちは〜……」
「うおっ、またいた!」

飯食って風呂入ってさて寝るかと布団を出すために押し入れ開けたら青白い顔の少年が三角座りしていたこの恐怖。いや、さすがに慣れた。もう十回は越えてる筈だもん慣れるわ。初見はちびるかと思ったけど。この歳になってちびったら死ねるわ。

「今日もかくれんぼか、まごじろー」
「えへへ……」
「あんまり押し入れに隠れるなって言ってるだろー」

顔色は悪いけど生身の人間のこの子どもは、しかし普通の人間じゃない。いや、構造的には普通なのかもしれないけど、なんと孫次郎は過去の人間なのだ。
何がどうなってるのか知らんが、俺の押し入れと孫次郎の部屋の押し入れが繋がってるらしく、孫次郎が中にいるとき俺が開けたら来てしまうらしい。そんなとんでも理論を説明できるほど俺は賢くないので、そういうものなのだと受け止めている。今のところ無事帰れてるからいいもののそのうち帰れなくなるんじゃないかと心配で仕方ない俺は、孫次郎にあまり入らないよう言っているんだが聞きやしない。帰れなくなって困るのはお前なんだからな!……いや、俺も困るけど!

「もうおやすみの時間ですか……?」
「おう。もう深夜だからな。お前も帰って早く寝なさい」
「まだお昼休みです……」
「もう何なのこの時差」

そういや朝布団を仕舞おうとしたら寝てる孫次郎が出てきたこともあったっけ。寝る前にかくれんぼしてたとかで。……子どもは早く寝ろ!
そして俺も早く寝たい!俺は溜め息を吐いて、冷蔵庫の上に置いていた長方形の箱を取った。半分くらい食いかけだけどいいだろう。ビニールから出して半紙で包み直す。

「ほら、羊羮やるから帰りな。あっ、ここで食うなよ!持って帰って皆で食えよ!」
「はぁい……ありがとうございます」
「よし。もう来るなよー」
「えへへ……」

菓子を持たせりゃ言うこと聞くのはいいこなんだけどなぁ。集られてるだけじゃね?なんて話は聞かないことにしている。
孫次郎がちょんと膝を抱えて座り直すのを確認してから、「じゃあな」俺は戸を閉めた。まだ布団を出していないけどすぐに開けて孫次郎がまた出てきたら困るので、テレビをつけて時間を浪費することにする。早く寝たかったのに。

ああそうだ、またお菓子買いにいかないと。今度は煎餅でいいかな。固いもんとかちゃんと食えるのかな。

そんなことをぼんやり考える俺は、もしかしたら過去からの訪問者をちょっぴり期待してるのかもしれない。


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