食満家の娘は仙蔵が好きな話

・食満留三郎の娘は仙蔵が好きな話
・名前変換は娘の名前
・母親視点
・オチなんてない



「おかあさん、おとうさんは?」

起きてきた娘の第一声に、私は苦笑しながら「おはよう」と挨拶をする。「おはよー。うさちゃんも、おはよーございます」挨拶と一緒に留三郎から貰った大きなうさぎのぬいぐるみにお辞儀をさせるものだから、とても可愛いと頭を撫でる。親馬鹿?仕方がない、私の子、天使だもの。

「お父さんはお友達のお迎えよ」
「おともだち」
「そう、今日遊びに来るって、言ったでしょう?」

留三郎の友達、伊作くんや文次郎たちだ。最近は全然集まってなかったから、留三郎も楽しみにしていた。私も彼らに会うのは楽しみだし、彼らも私や娘に会えるのを楽しみにしてくれているらしい。
朝子は目をぱちぱちと瞬かせて、それからぱっと表情を明るくした。

「せんぞーさんは?!」
「仙蔵も来るわよ」
「きゃあっ、おかあさん、およーふく!」
「はいはい。おしゃれしなきゃね」

私の娘は仙蔵のことが好きらしい。夢が仙蔵のお嫁さんだと聞いた留三郎は静かに涙した。私に似て面食いみたい、とは、留三郎には言えない。
朝子にお気に入りのワンピースを着せて、髪を結ってあげる。そうしていたら玄関から物音がして、留三郎の「ただいま」が聞こえた。

「ただいま、朝子」
「おかえりなさい、おとうさん」

朝子はぬいぐるみを放り出し玄関へと駆けていく。私がぬいぐるみを拾い上げてそれを追えば、留三郎が相変わらずの子煩悩を発揮して朝子の頬にキスをしているのが見えた。その後ろにいる彼等は思い思いの表情を浮かべている。
「お邪魔します」そう言ったのは留三郎の親友の伊作くん。小平太や文次郎は「相変わらずデレデレだな」と呆れていて、「俺の子天使だから仕方ねぇよ」留三郎はそう答えていた。
長次と仙蔵は手土産を渡してくれながら、それぞれ挨拶をくれる。気を遣わなくていいのになぁと思いつつも「今日はすまんな」「いいって。私も皆に会いたかったし」定番のようなやりとりをしていれば、「せんぞーさん!」我が家の天使が仙蔵の名を呼んだ。

「久しぶりだな、朝子。元気にしてたか?」
「うんっ!せんぞーさんも、げんき?」
「ああ」

仙蔵が朝子を抱き上げれば、朝子は頬を真っ赤に染めた。ギリッと何処かで音がした気がするけど多分留三郎なので誰も気にしない。「いいなぁ、私もだっこしたい」と小平太も言ったけれどそれは断固拒否しようと思う。
皆に挨拶なさいと言えば、朝子は仙蔵に抱き上げられたまま一通り挨拶をする。それからはリビングへ移動してもずっと仙蔵に夢中だった。

「日に日に可愛くなるな、朝子は」
「ほんとう?」
「ああ。大きくなったら母親と同じように美人になるぞ」

そんなお世辞をいう仙蔵は私まで惚れさせる気かしら。留三郎は朝子が仙蔵にずっと引っ付いていることにショックを受けているけれど、当の娘は仙蔵以外見えていない。朝子に仙蔵の迷惑になるでしょうと言っても仙蔵が平気だと言うものだからどうしようもなくて、私と伊作くんは苦笑するばかりだった。

「じゃあ、わたしがおおきくなったら、およめさんにしてくれる?」
「ああ」

仙蔵が即答すると、朝子はきゃあきゃあ言いながら抱きついた。小さな娘の夢を壊さないようにしてくれる仙蔵はとてもいいひとだけれど、留三郎はやっぱりショックを――
あ、もう泣いてた。


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