電車で平太と出会う改

電車は、きらい。
揺れるとだんだん気持ちが悪くなるからきらい。
朝は人がたくさんで、ぎゅうぎゅうで苦しいからきらい。
帰りは友だちと話してると、おとなの人に恐い顔で見られちゃうから、きらい。(でもこれはぼくたちが悪いんだって知ってる。遠足のとき先生が他の人の迷惑になるから静かにしなさいって言ってたから)

でも、最近は、ちょっとだけ、好き。

窓から、おうちを建ててるのが見えるのが好き。
委員会のある日は、中学生の先輩が一緒に帰ってくれるから、好き。
やさしいおねえさんに会えたから、好き。



夜更かししちゃって、すごく眠い日だった。いつも9時に寝てるのに、先生に借りたご本を読んだら全然眠れなくなっちゃった次の日。歩こうとしたらふらふらして、学校に行ったら孫次郎たちに心配されちゃって、途中で寝ちゃいそうになりながら授業を受けた、その帰りの電車でのこと。
座ってすぐに寝ちゃったぼくは、知らない駅で目をさました。見覚えなんてなくて、ともだちもいなくって、どうしたらいいのか分からなくて泣きそうになったぼくを、助けてくれたのがおねえさんだった。
お姉さんはそこが終点の駅だって教えてくれた。それからぼくを駅の名前が並んでる看板のところに連れていってくれて、どこの駅でいつも降りるのかをきいてくれて、どの電車に乗って何個目の駅で降りればいいのかを教えてくれた。電車まで連れていってくれて、気をつけてね、って言ってくれた。
やさしい、おねえさん。



「こんにちは、おねえさん……」

昨日とおとといは会えなかったけど、今日は会うことができた。おねえさんはいつも一緒の時間に乗ってるわけじゃないらしくて、だから会えるととってもうれしい。

「こんにちは、平太くん」
「となりに座ってもいいですか……?」

おねえさんはぼくの名前を覚えてくれていて、いいよとうなずいてくれる。うれしくてちょっとだけ恥ずかしい。おねえさんのとなりに座って、ぎゅうっとランドセルの肩ベルトをにぎる。
算数の問題を答えられたことを話せば、おねえさんはよかったねって笑ってくれる。かけっこで三組の子に負けたことを話せば、残念だったねって言ってくれる。ぼくがしゃべっても恐い顔をしないおねえさんは委員会の先輩と同じくらいやさしくて、だから同じくらい、好き。

「あの、おねえさん……」
「なーに?」
「……えへへ」

やさしいおねえさん、だいすき、です。


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