三之助とその彼女のドライブ

三之助とその恋人のデートの殆どがドライブだと聞いて、富松作兵衛は戸惑った。方向音痴が車で出掛けて大丈夫なのか、まぁ運転技術は別に問題ねぇとしてもすぐ迷うんじゃ、いや待てよく免許取れたな卒業検定で道に迷わなかったのか普段もそうしてくれ!……戸惑うことがちょっとずれたが、まぁ、とにかく。

「行きは三之助が運転するの。街中に行こうっていったら山に着くし、山に行こうとしたら海に着いたり、面白いの」
「やっぱ思いっきり迷ってんじゃねぇか!」
「ドライブだもの、目的地なんてないのと一緒よ」
「一緒じゃねぇよ!」
「ふふふ」

作兵衛のつっこみにも三之助の恋人はころころと笑うだけだ。気が抜ける。作兵衛が深く息を吐いて肩を落とすと、彼女はまた口を開いた。

「大丈夫よ。三之助が迷ったって、私も免許持ってるんだから。カーナビさえあれば何処に行っちゃってもちゃんと帰れるわ」
「……まぁ、それは、そうか」
「それに、目的なくうろうろするのも新しい発見が沢山あって楽しいのよ。この前はすごく美味しいラーメン屋があったの。また行きたいなぁ」

いくら新しい発見があったとしてもその場所を覚えてなければあまり意味のない気もするが、話に水を差すのは控えた。実際新しい発見など二の次でふたりが一緒ならそれでいいんだろう。のろけなんてこれ以上聞いてられるか。捜索が必要な迷子になってないなら、それでいい。


「あれ、ふたりで何してんの?」
「三之助!もう、三之助のこと待ってたんじゃない。講義終わったらドライブ行くんでしょ?」
「あー、そうだった。作兵衛は?」
「こいつに捕まってたんだ。ったく……デートはどうでもいいけど、ちゃんと家には帰れよ。車の捜索なんてやりたくねぇからな」
「捜索?なんで?」

三之助が不思議そうな顔をするのは無視。作兵衛が席を立つと、彼女も満面の笑みで三之助に腕を絡める。
「話付き合ってくれてありがとね」そう言う彼女に手を振って応え、楽しそうに去っていくふたりに作兵衛は小さく息を吐いた。馬鹿ップル乙。


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