伊作と密室脱出始まり編(続かない) 目を開けると、ぼんやりとした視界の中に伊作がいることに気が付いた。私は畳の上に転がっていて、伊作に覗き込まれている。状況がいまいち掴めないけれど、色っぽいことじゃないのは確かだ。 「気が付いた?」 「うん……どこ、ここ」 体を起こせば伊作が支えてくれる。ぐるりと辺りを見回せば、見覚えのない部屋の中だった。長屋や教室よりも低めの天井、薄暗いのは四方が壁で囲まれているからだろう。窓はない。ぴったりと閉められた戸からは光は差し込んでおらず、幾つかの灯があるだけ。まったく変な部屋だ。 こんな部屋は知るわけない。伊作は何か知っているかと聞いてみれば、伊作は困ったように話し始めた。 「ふたりで薬草摘みに行ったのは覚えてる?」 「うん」 「そこで変な小屋を見つけたでしょ」 「……ああ、うん」 「ここはその中みたいなんだ」 裏山にあった見覚えのない小屋。そうだ、それを不審に思って調べようと戸を開けて……気を失ったんだった。怪しいにもほどがある。 「早いとこ出て学園長に報告しましょ」 「それがさ……」 立ち上がって戸に向かう。手を掛けて引く――動かない。反対方向、動かない。上げる、動かない。押しても引いても、動かない。 何これ、何これ。叩いても蹴っても開く気配のないそれに焦燥感が募る。そんな私を止めたのは、伊作の手と声だった。 「ここ、作法が作ったからくり小屋みたいでさ。……仕掛けを解かなきゃ、出られないみたいなんだ」 不用意に開けるんじゃなかったとは、後の祭りだ。 ← ×
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