食満に叱られたい一年くのたま主

倉庫内の点検と修補を終え、下級生たちを労って、倉庫の鍵を掛ける前に先に帰す、そんないつも通りの委員会の終わり頃のことだった。
委員会の仕事を手伝ってくれていたくのたま一年生の朝子が、しんべヱたちと帰ることなく俺に駆け寄ってくる。何か話でもあるのかとしゃがんで視線を合わせてやれば、やたらときらきらした目で俺を見ていることに気がついた。

「食満先輩食満先輩、お願いがあるんです」
「おう、なんだ?」
「私を叱ってください」
「……は?」

予想外すぎて暫く理解できなかった。





……ということを伊作に話すと、やっぱり理解できなかったらしく首を傾げていた。やっぱりそうだよなと思いながら伊作が意見を纏められるよう時間を取る。今は夜、お互い鍛練も薬を煎じるのも終えて後は寝るだけなので特に問題はない。

「ええと、つまり、……叱られたいんだよね?不注意を指摘するとか、よくなかった行動を咎めるとか、そういうことをされたいんだよね?」
「ああ、その通りらしい」
「……なんで?」

こっちが聞きたい。結局疑問しか生まれなかったらしい伊作にやっぱそうだよなと思いながら俺は口を開く。話はまだ終わりじゃないのだ。

「それが三日前の話で」
「え」
「今日の委員会でも叱ってくれと言われた」
「え」

なんで?とまたしても首を傾げる伊作にこっちが聞きたいとまたしても思う。まったく謎だ。
「……まぁ、理由は置いといて、」それで叱ったのかと訊かれ、それには俺は頷いた。後輩にあんな目をして頼まれたら俺でなくとも断れないだろう。とはいえ朝子は叱られるようなことをしていないため、難癖のような注意になってしまったが。

「それで、叱られたその子は?」
「喜んでた、と思う。両方ともな」
「……ごめん、僕にも分からない。本人に聞いてみるしかないんじゃない?」

やっぱりそれしかないか。話を聞いてくれた伊作に礼を言い、俺は布団に入った。次の委員会でも同じように言ってきたら、そのときは理由を聞いてみよう。
あと、心配はないだろうが、叱ったことだけをくのたま上級生に話されたら後が怖いためそれの口止めもしなくては。





「食満先輩食満先輩、叱ってください」

やはりというか何というか。目を輝かせてやってきた朝子を目線を合わせて迎え入れる。叱る前に、と前置きすれば、きょとんとした表情で首を傾げていた。

「なんでそんな叱られたいんだ?」
「だって、先輩はお優しいから私たち一年生を褒めてくださるでしょう?」

俺の問いに、なんだそんなことかと言わんばかりに顔を綻ばせて笑う。そして始めた説明を、とりあえず黙って聞き続けた。

「嬉しいですけど、でも、それじゃあしんべヱたちと一緒だから……」

一緒なのは嫌だったか。一年生を褒めるのは全員頑張ってくれているからだが、成長の早いくのたまには逆に不愉快だったのかもしれない。ならば悪いことをしたなと思いつつ、まだ続きがあるらしい言葉を待つ。

「叱ってくれたら、特別みたいじゃないですか」

照れながら言ったそれは、やっぱり暫く理解できなかった。


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