中途半端に終わる利吉さんと幼女

物珍しそうに辺りを見回す少女は町というものを見たことがないのかもしれない。そう利吉は考えながら少女の背を優しく押した。何処に行ってもいいのだと、歩き出した少女に先導させけれど裏路地や汚い部分は見せないようにして。
色とりどりの品が並ぶ小物屋や呼び込みの声が賑わしい露店、子どもの足を止めるには十分に魅力的だ。少女はふわふわとした細い髪を揺らし、小さな歩幅で誘惑されながら歩いていく。手を引かれる利吉とは兄妹と思っているのか(その実は護衛と対象者なのだが)微笑ましい表情で少女と行き交う人に悪い人などいない。少なくとも少女にとってはそれが真実だった。

「何か欲しいものは?」

利吉の問いに少女はぶんぶんと首を振る。望めばどれもこれも手に入る少女はそうすることをしなかった。少女がねだったのは数本の花だけだ。賢い子どもだと思う一方で、子どもらしくないとも思う。とにかくこの調子では依頼主に持たされた銭の殆どをそのまま返すことになるだろう。それを依頼主がどう思うか、考えることは止めておく。

少女の視線は右へ左へと忙しないが、やがてその特徴が見え始めた。鮮やかな反物、饅頭、細工の細かい小物、団子。そのうち甘味の割合が増え始め、少女の歩みがぴたりと止まった。

「……」
「団子屋か。少し休むかい?」
「……うん」

甘いものの誘惑にはやはり勝てないのだろう。微笑ましいとの感情がはじめて生まれ、利吉の口が演技でない緩い弧を描く。
見知らぬ店に入ることに緊張しているのか少女はぎゅうと小さな手に力を籠めている。弱い、けれど少女にとっては精一杯の力で握られた手を優しく握り返し、利吉は少女の手を引いて暖簾をくぐった。きっと看板娘の若々しい歓迎の挨拶に慌てた少女がぺこりと頭を下げて娘と他の客の微笑みを誘うだろうと、予想しつつ。


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