七夕:作兵衛

作兵衛先輩は頑張りやさんだ。
普段は迷子のおふたりに振り回されてるし、捜索に駆り出されてばかりいる。委員会は用具委員会だけど、下級生ばかりだから作兵衛先輩には苦労を掛けてるって食満先輩が言ってた。
それでも作兵衛先輩は文句は言っても投げ出したりしないし、一生懸命働いている。本当に、頑張りやさん。

「だから、今日は私が作兵衛先輩の願い事を叶えようと思うんです」
「はぁ?」
「今日は七夕でしょう?短冊にお願い事書いて笹に飾ったじゃないですか。でもお星様がお願い事を叶えてくれるわけないって私でも知ってるし、だから作兵衛先輩がしてほしいことがあったら、私が叶えようと思って」

私だって作兵衛先輩にはたくさんお世話になってる。いつも頑張ってる作兵衛先輩はきっと疲れてるだろう。疲れてる作兵衛先輩のためにできることがあるなら、迷子の捜索だって用具委員会のお手伝いだって、何だって頑張るつもりだ。
それなのに作兵衛先輩は首を振った。

「別に、俺はいいや。他の奴の願い事でも叶えてやってこい」
「作兵衛先輩じゃないと意味ないんですー」
「なんでだよ」
「かくかくしかじか、ということで」

隠すことでもないから全部説明すれば、作兵衛先輩は呆れた顔をしてから、「なんだそれ」って笑った。それから作業を続けながらも考え始めてくれたから、願い事を叶えることは構わないみたいだ。私もご機嫌になって、作兵衛先輩に糸を渡す。
作兵衛先輩は何を頼んでくれるんだろう、楽しみ。

縄の補修をしていた作兵衛先輩は、ぐっぐっと引っ張って強度を確かめる。道具を片付け始めたから作業は終わったんだろう、私は縄を端から纏め始めた。纏め方は作兵衛先輩に教わったから大丈夫だ。

「そうだなぁ……じゃあ、今度の休みに一緒にうどんでも食いにいこうぜ」
「そんなことでいいんですか?お手伝いだって何だってしますよ?」
「いいんだよ」

纏めた縄を作兵衛先輩に渡せば、作兵衛先輩は短く礼を言って受け取る。それからくしゃくしゃと私の頭を撫でた。なんだか上機嫌の作兵衛先輩は、目を細めて笑ってくれる。

「お前は今のままで十分だ」

作兵衛先輩が喜んでくれるなら、それでいいんだけど。
でも作兵衛先輩のために何もできないのは寂しいから、今度は縄の直し方を覚えよう。作兵衛先輩に内緒で、食満先輩に教わったら、きっと驚いてくれるだろうから。



(木冬さんへ)


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