七夕:食満一家

・食満が結婚して娘がいる
・↑苦手な方はご注意を!





お父さんは毎年七月になるとおうちの庭に大きな笹を持ってくる。七夕のお飾りをするためだ。
その笹に幼稚園で作ったお飾りを飾るのも、お願いごとを書いた短冊を飾るんだって教えてくれるのも毎年だから、今年はお飾りだけじゃなくて短冊も折り紙を切ってヒモをつけて作ってみた。それからお願いごとのお話をするときにお父さんに渡してみれば、お父さんは凄く驚いてから、私をほめて、ぎゅうってしてくれる。
なかなか放してくれなくてお願いごとが書けなかったけど、お母さんがお父さんを叱ってくれて、それからみんな一緒にお願いごとを書くことになった。ピンクの短冊、ミドリのクレヨン。どんなお願いごとを書こうかな、悩んじゃう。

「どんなお願いにするんだ?」
「ええとね、ううん、お願いごとはいっぱいあるの」
「じゃあ全部書かないとな」
「いっぱい書いていいの?」
「ああ、いいぞ。短冊が足りなかったら作るし、笹が足りなくなったら採ってきてやるからな」

お父さんの大きな手が私の頭をわしゃわしゃする。ぐちゃぐちゃになっちゃったけど、今度はお母さんが撫でて元通りにしてくれた。

「お母さんとお父さんは、なんて書くの?」
「お母さんはもう書いたわ」
「お父さんも書いたぞ」

いつのまに!びっくりしてる私に、お母さんとお父さんはくすくす笑う。早くしないとお母さんもお父さんも短冊を飾れないから、私もお願いごとはひとつだけにすることに決めた。何にしようかな。



お願いごとを書くと、お父さんが肩車をしてくれた。そのまま笹の高いところに飾らせてくれる。ちゃんと結んだら、ピンクの短冊がひらひらしていた。
お父さんの短冊も、お母さんの短冊も結んで、お飾りもたくさんつければ完成だ。お父さんに下ろしてもらうと、頑張ったな、って頭を撫でてくれた。

「それで、お願いごとは何にしたんだ?」
「ひーみーつ」

ほんとは教えてもよかったけど、なんだか恥ずかしいから、ひみつ。そうしたらお父さんは残念そうな顔をして何度か聞いてきたけど、やっぱりひみつ。お父さんはなんてお願いしたのか聞いたら「お父さんも秘密、だ」って言って、そのまま私を抱っこしてくれた。肩車も好きだけど、抱っこはもっと好き。お父さんをぎゅうってできるから。
そうしているとおうちの中からいいにおいがしてきた。お母さんが私とお父さんを呼んで、晩ごはんの時間だ。お父さんに抱っこしてもらったままおうちに入る。
ごはんを食べたら今度はお母さんも一緒に笹飾りを見にこようねって、お父さんと約束して。



(チアキさんへ)


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