平太を拾った兄妹の続きの食満

平太に続いてトリップしてきた他の用具委員がなんやかんやあって兄妹の家に住むことになった数日後の話。
夢主兄妹は出てこない。というか留三郎と作兵衛しか出てこない。



「……平和だな」
「平和ですね……」

隣に腰を降ろす作兵衛が俺の呟きに同意を返した。数日前のどたばたが嘘のようだが、嘘だったらこの屋敷にはいない。これは現実で、現実だというのに緊張感が持てないのは屋敷の主たちのせいだろう。
彼らは今外出中で、一年生たちもそれに自ら望んでついていった。まだよく分からない世で目の届かない場所に行かせるのは不安だったが、俺と作兵衛は屋敷の警備を言い渡されている。というか、この世じゃ滅多に侵入者なんていないらしいから体のいい留守番だ。それでも後輩たちの命と衣食住の引き換えに約束したのは絶対服従だから従うしかない。

「……あいつら、買い物でしたっけ」
「平太は買い物、喜三太としんべヱは川釣りだったな」
「……」
「心配するな。場所も分かってるし、時間までに戻らなければすぐ連れ戻しに行くから」

青い顔をする作兵衛をなるべく安心させるように言葉を選ぶ。それがさほど効果を持たないことは、分かっていた。
作兵衛はまだ彼らを信用していない。だから後輩たちが心配になる。それでいい、誰を信用するかは自分で決めるべきなのだ。勘のいいしんべヱたちが主たちをいい人間だと判断した、俺は守る術として彼らを正とし従うことにした、だからといってそれに流されてはならない。自ら判断を下すことが、そのための目を養うことが、忍には必要となる。
実際、彼らは善人だろう。得体の知れない五人を易々と受け入れて、着物を与え、毎食姫飯を食わせ、柔らかな布団で寝かせているのだから。普段は馬鹿かお人好しでしかない彼らが曲者だったらあらゆる穴丑も順忍も吃驚である。
だがその意見を押し付けることはせず、俺は作兵衛の頭を撫でてから話を変えることにした。

「ところで作兵衛、毎日こうしていると身体が鈍ってしまうな」
「そう、ですね」

走り込みや鍛練は隙を見て全員で行うつもりだが、今は丁度いい機会だろう。たおるとかいう名の手拭いを、頭巾代わりに頭に巻く。足袋を履くと確かめるように地面を踏み締めた。

「よし、ひとつ手合わせでもするか」
「は、――はいっ!」

とりあえず今は、少しでも不安を和らげてやろう。帰れる日まで、こいつらを守るのは俺の役目なのだから。


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