↓の続編的ななにか

夢主がショタコンかもしれない
彦四郎が不憫かもしれない



今日も今日とてかわいい一平と遊ぼうかと思ったのだけれど、見つけた彼は生物委員会が逃がした虫探しに一生懸命になっていた。頑張る一平もとてもかわいかったのだけれどさすがに委員会の邪魔をしちゃいけないと、私は諦めて踵を返す。せめてずっと見ていたかった、でもそうしていたら結局邪魔してしまうだろうから留まってもいられなかった。
でも寂しいわぁ。ふう、と息を吐けば、ちょうど通り過ぎようとする井桁模様。賢そうな顔立ちは一平と同じい組だったと記憶している。名前は確か、

「彦四郎、だったかしら」
「はい?」

合っていたらしく返事と共に足を止めた一年生に、私はにっこりと笑ってみせた。



隣に座らせ、毒も何もない饅頭を与えれば、彦四郎は躊躇いながらもそれを口にする。一口目で目を輝かせ、黙々と食べ進める姿は一平ほどではないけどかわいらしい。

「美味しい?」
「はい。ごちそうさまでした」

こくこくと頷き呑み込むと礼儀正しくそう言った彦四郎の頭を撫でれば、彦四郎は恥ずかしそうに慌てる。やっぱりかわいいわぁ、と呟きそうになったけれど、近付いてくる気配に口を閉ざした。

「先輩、彦四郎……?」

ごとり、と何かが落ちる音に振り向いて見ればそこにかわいいかわいい一平がいた。勿論気付いていたけれど、いつもなら笑顔を浮かべて駆け寄ってきてくれる一平がひどく悲しそうな顔をしているものだから驚くのも当然だろう。

「ひ、彦四郎、僕、信じてたのに……!」
「一平っ、ち、違うよ、僕はただ先輩にお饅頭を戴いただけで!」
「う、嘘つき!」

何だか痴情の縺れみたいな会話が繰り広げられているのだけれど、さすがにまだそういった話は早いだろう。どういうことかしらと一人首を傾げる。彦四郎は虫探しを手伝う約束をしてた、とか。まあ、何であろうと一平が悲しんでるのを放っておくことなんてしないのだけれど。

「一平、どうしてそんな――」
「先輩っ」

事情を聞こうとした私の言葉が止まった。
仕方ないでしょう、一平からぎゅうと抱きつかれるのははじめてだったから。抱き締めても恥ずかしがってなかなか返してくれることがないのに、自分からそうしてくれるだなんて考えたこともなかったから、思考が停止してしまう。

「先輩は、僕の先輩なんですから、あんまり他の皆に優しくしちゃ駄目なんです」

一生懸命に私の腰にしがみつく一平に、その言葉に、何を我慢できるというの。

「分かったわ、ごめんなさいね、一平」

私に付き合わされただけなのに嫉妬の対象にされた彦四郎には悪いけど、今はかわいい一平しか目に入らない。抱き締めたかったけれどそれには一度離して貰わなくちゃいけないから、その頭を撫でることにした。
何処から来たのか空気を読んで彦四郎を連れて消えた鉢屋と、一平の落とした壺から逃げ出した虫を追い掛け始めた伊賀崎は、今度団子でも奢ってあげよう。

「一平、私の部屋にね、お饅頭とお団子があるの。一緒に食べましょうか」

嬉しそうに笑って、それからようやく自分が抱きついているのに気付いたのか真っ赤になって離れる一平は、やっぱりかわいい。
身を低くしてからぎゅうと抱き締めれば、抜け出そうと暴れられることもなく、おそるおそるといった感じに小さな腕が背中に回された。

「うふふ、一平、大好きよ」
「……僕も、嫌いじゃないです」

ああもう、本当に、かわいい子。


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