一平をぎゅうぎゅうするだけ

夢主がショタコンかもしれない



先輩、と駆け寄ってきた一平に、私は腰を落とし腕を広げて待ち受けた。けれど困ったように距離を置いて立ち止まる一平を、それでも無理矢理抱き寄せてみれば「うわあっ」慌てる彼がとてもかわいい。

「せ、せんぱいっ、離れてくださいっ」
「ふふ、一平はかわいいわぁ」
「せ〜ん〜ぱ〜い〜っ」

幼さの残る柔らかな頬に自身のそれを触れさせてみれば、真っ赤になってるんだろう、熱くなってるのが分かる。敵うわけもないのに暴れて抜け出そうとする一平に、ほんの少し力を抜いて顔を覗き込んだ。できるだけ距離を取ろうとする一平に「今日はどうしたの?」問えば、一平は懐に手を突っ込もうとする。取りにくそうにするから残念だけれど体を離せば、好機とばかりに退がられた。

「一平、もうぎゅうってしないから、もうちょっと近くにいらっしゃい」
「……本当ですか?」

警戒する一平もかわいい。
寂しいわと言えば結局手の届かないぎりぎりまで近づいてきてくれる一平は優しい子。懐から紙を取り出すと、それを広げて見せてくれた。テストの答案用紙だ。丸ばかりつけられた、百点満点の。

「あらまあ、百点なんてすごいじゃない」
「……先輩に教えていただいたおかげです」
「ふふ、一平が頑張った結果よ」

わざわざ見せに来てくれたことが嬉しくて思わず抱き締めたくなるけれど、我慢我慢。伸ばしかけた手をぐっと握って自分の身体へと戻した。
すると一瞬嬉しそうに綻んだ一平の相好が、ぎゅっと眉を寄せるものになる。あら、と思うよりも先にもう一度私は一平へと手を伸ばしていた。

「一平、あなたの頭を撫でたいのだけれど、近付いてもいいかしら」
「……ぎゅってしないなら、いいですよ」

そう嬉しそうな顔になるのを耐えてそっぽを向く一平を、やっぱり抱き締めてしまったのは、一平がかわいすぎるのが悪いのだと思う。

「だ、大丈夫か一平!」

どこで嗅ぎ付けたのか突然やってきて私と一平を引き離した竹谷には、後でちょっとだけ仕返ししましょう。それにしても竹谷の後ろに隠れてこっちを窺う一平ってば、本当、かぁわいい。


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