1月

お付き合いを始めてから、一年と数ヶ月が経っていた。高校三年生だった留三郎先輩は大学生一年生ももう終盤で、私の高校生活も残すところあと僅か。受験勉強もラストスパートという一月の寒い日に、私は留三郎先輩と帰路を辿っている。
月に何度か、留三郎先輩の時間が空いている日に迎えに来てくれるのだ。最初は遠慮したけれど、先輩が大学生になってから会える日が激減していたからとても嬉しかった。特に寒い日はこうやって手を繋いでくれて、心まで暖かくなる気分。一緒に歩いているのはけっして長い時間じゃないけれど、とても大切な時間だった。

「もうすぐ受験だな」
「はい。絶対合格しますから、待っててくださいね」
「当たり前だ」

目を細めて笑う留三郎先輩に、私の頬も思わず緩んでしまう。そうしたらまた一緒に帰ろう、というのが、勉強で疲れていた私の心に活力をくれた。
私の志望校は、留三郎先輩の通う大学だ。私の行きたい学部と学力を合わせて考えた結果がその大学だった。さすがに志望学部は違うけれど、近くにいるんだと思えたらそれが幸せになるだろう。まあ、まずは何より受験に合格しなきゃならないんだけど。頑張らなきゃ、とひとり気合いを入れ直す。

「ところで律子。もうすぐ誕生日だろ」
「あ、はい」
「当日会えるかは分からないから、今渡してもいいか?」

え、と私が驚く間に、留三郎先輩は繋いでいた手を持ち上げるように握り直した。優しい視線がその手に注がれ、それから物語のお姫様にするように、そっと指へと滑らせる。銀色に輝く、指輪を。

「せ、せんぱい、これ」
「……気に入らないか?」
「い、いえ!可愛いし、綺麗で、とても、嬉しい……です」

もっといい言葉が出てくればいいのに。頭がいっぱいで、私は大したことも言えずに思ったことだけを口から出していた。それでも「よかった」優しく笑う留三郎先輩に、私は泣きたくなるくらいに嬉しくて不細工な笑顔になってしまったんじゃないだろうか。
誕生日おめでとう、はせめて電話させてくれるかと言われて、私は目が回りそうなほど何度も頷く。受験勉強でいっぱいいっぱいになっている私に気を遣ってくれていて、だから私が「会いたい」だなんて我が儘は言ってはいけない。けれど来年は一緒に過ごしたいと言えば、気が早いと笑われるだろうか。出来れば留三郎先輩の誕生日も、とも気恥ずかしくて言えなくて。

「留三郎先輩」
「ん?」
「待ってて、くださいね」

代わりにまた願い事を口にする。応、と留三郎先輩の声がとても優しくて、夢みたいだと私はそっと薬指を撫でた。そこには幸せの証のようなそれがぴったりと嵌められていて、お馬鹿な私に夢なものかと教えてくれていた。


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