9月

誕生日を迎えた私は、学校で友達にお祝いされて、プレゼントを貰っちゃったりなんかして、更には部活でもお祝いされて、大変ほくほくとした気持ちで帰路についていた。誕生日っていいものだなぁ、お祝いするのもされるのも好きな私は次に誕生日を迎える子にはもっと楽しい一日になるよう頑張ろうと心に決める。まぁ、今日がとっても楽しかったから、これ以上なんてないのかもしれないけど。なんちゃって。
そんなことを考えている私は多分すごく笑顔で、知らないひとが見たら驚くかもしれない。どうにか普通に戻そうとするも余計変な顔になりそうだったから諦めた。幸いなことに誰ともすれ違わないまま見えてきた我が家の前に、見知った姿がひとつ。

「あ。作ちゃん」
「……おう」

隣の家の富松作兵衛くんは、私と同い年で、幼なじみだ。「ただいま!」私が挨拶すれば「おかえり」不本意そうながらも返してくれる、面倒見がよくて優しい友達だった。

「作ちゃんどうしたの?何か用事?」
「……今日誕生日だろ、律子」

むっとした顔は照れ隠し。突きつけられたタッパーは私の好物が入っていて、白く大きな箱は去年までと同様手作りケーキだろう。作ちゃんちのお母さんは料理上手で毎年手料理をプレゼントしてくれる。私も私の家族も密かに楽しみにしていたプレゼントだ。だから私は「わあ!」歓声を我慢せずに上げていた。

「ありがとう、作ちゃん!」
「べ、別に、俺は持ってきただけだし……礼ならおふくろに言えよ」
「うん、でも、作ちゃんもありがとう!」

私がお礼を繰り返せば作ちゃんは顔を真っ赤にして自分の家に向かう。ああ帰っちゃう、私が慌てて「作ちゃんバイバイ!」声を掛けたら、作ちゃんはドアを開ける前に小さく手を振ってくれた。作ちゃん、優しいなぁ。
私は一層ほくほくとした気持ちで自分の家に入る。ケーキが崩れないようにそうっと運んで、テーブルの上で箱を開けた。白いクリームがちょっと歪にデコレーションされているそのケーキに、私は嬉しくてこの瞬間どうしようもないほどの笑顔になっていたと思う。
作ちゃんのお母さんはお菓子作りが上手で、ケーキもお店で売ってるものみたいに上手に作る。だからこのケーキは、作ちゃんのお母さんの作品じゃない。一緒に作ってるんだろうけど、それでもこれは、作ちゃんの作品だ。
実はここ数年は作ちゃんが作ってくれてることを、私は知ってる。作ちゃんは黙ってるから一応知らんぷりをしてるけど、作ちゃんのお母さんが教えてくれていた。筒抜けだ。作ちゃんごめんなさいと心の中で謝っておく。

「おかあさーん!ケーキ、食べよ!」

美味しそうなケーキを前に私は我慢できず言うけれど、先にご飯でしょうと叱られて、渋々ケーキを箱へとしまった。早くご飯を食べて、作ちゃんのお母さんの料理も美味しく頂いて、作ちゃんのケーキを食べなきゃ。とっても美味しいちょっとだけ歪なケーキを食べたら、作ちゃんにまたお礼を言うんだ。そうしたら作ちゃんはやっぱり何でもないような顔をして照れるんだろうなぁ。
待っててね作ちゃん、と私は誕生日のごちそうに取り掛かる。幸せな一日は、まだもうちょっと続くのだった。


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