5月

今日は私の誕生日で、弟の平太がお祝いしてくれようとしている。それは大変嬉しいし、そう言ってくれたこと自体がもうプレゼントのようなものだった。ブラコンで何が悪い、私の弟が可愛すぎるから仕方ない。
問題なのはここからだ。ご飯を作ってくれると言ったけれど、平太はまだ10歳。平太が包丁で指でも切ったらと思うといてもたってもいられない。そう主張した私に、平太は不服そうに潤んだ目で私を見つめてきた。その目には、とても弱い。

「平太と律子の仲良しクッキングー」
「……?」
「何でもない何でもない。はじめよっか」
「うん……」

結局、折衷案として私も一緒にキッチンに入ることになった。平太はやっぱり不服そうだったけれど、目の届かないところで平太に包丁どころかピーラーを持たせることも恐ろしいのだから、これ以上は譲れなかった。此処からならきちんと見てられるし、消毒液や絆創膏はすぐ届くところに置いている。万が一何があってもすぐ対応できる、筈だ。

「平太、人参を押さえる方の手はちゃんと猫さんのお手てにしてね」
「はーい……」
「そうそう、上手」
「……えへへ」

今日のメニューはカレーライスだ。切る野菜は幾つかあるけれど、平太は怖がりさんだから、切るときに思いきりすぎて危なくなっちゃうことはない。それだけは安心だ。ゆっくりゆっくり切っていって、フライパンで炒めて。フライパンの中身をお鍋に移すのは平太には重いから私が代わりにやって、今度は水を入れて煮込んでいく。あとはルウを入れたりするくらいだから、火傷しないようにだけ注意だ。
ご飯を洗って炊飯器にセットするのは平太がやってくれている。ついでにサラダの準備もしよう。野菜を洗うのをお願いすれば、平太はこくこくと頷いた。平太が洗ってくれたのを、今度は私が切っていく。ドレッシングは平太お気に入りのものが冷蔵庫にあるから作らなくてもいいだろう。洗い物はあとでやってくれるというから、刃物だけは先に洗っておこうと思う。

「わあ、おいしそう!」
「えっと……召し上がれ……」
「いただきます!」

そんなこんなで無事何事もなく完成で、私はほっと一安心。平太が盛り付けしてくれた、ちょっとカレーが多めのお皿を前に、私はただただ本心を告げる。お母さんの真似か照れくさそうに召し上がれと言う平太はとても可愛い。手を合わせ、スプーンを握り、平太の視線がまっすぐ向けられているなかで、カレーをひとくち。

「平太」
「!な、なに……?」
「とってもおいしいよ!」

不安そうにする平太に一言。平太はぱちくりと何度か瞬きをして、少し悪い顔色をちょっとだけ血色のよいものにした。自分もスプーンを持って、ひとくち食べて、えへへと笑って。

「あのね、お姉ちゃん……」
「うん」
「お姉ちゃん、誕生日、おめでとう……」
「うん、ありがとう!」
「来年は……お姉ちゃんの好きなの、作るね……」
「わぁっ、ありがと、平太!大好き!」

そんなこと言われたらお姉ちゃん来年も誕生日に予定入れられない。来年の手帳はまだ手に入らないから携帯電話のスケジュール帳に書いておかないと。友人だとか彼氏だとかは二の次だ。ブラコンで何が悪い!

「……僕も、だいすき」
「!!!」

私の弟が世界一可愛いんだから仕方ない!


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