4月

「た、誕生日……?」
「うん。ハッピーバースデー私」

大学生になってはじめての誕生日、仲良くなったばかりの伊作くんに見せびらかしたのは同じく新しい友人たちから貰ったプレゼントだった。まだ知り合ったばかりの友人たちから貰えるとは思っていなくて、とても驚いたのは先程のことだ。誕生日の話をしたのもつい先日だったというのに……いや、だから覚えててくれたんだろうか。なんにせよ、嬉しかったことは事実だ。

「お、おめでとう!うわ、僕何も用意できてない……」
「あはは、いいよいいよ気持ちだけで」
「うーん……」

しかし伊作くんは肩を落とし、悩みだしてしまった。ちょっと自慢したかっただけなのに催促してしまったみたいで申し訳ない。本当にいいんだけどなぁ、ともう一度声を掛けようとしたときに、「あ、そうだ」何やら思いついてしまったみたいで伊作くんが明るい顔を向けてきた。

「よかったらお昼一緒に食べない?ご馳走するよ」
「え?……いいの?」
「勿論!」
「うーん……じゃあお言葉に甘えようかなぁ」

提案された美味しい学食はなかなか魅力的で、私はつい頷いた。何ならまたいつかこちらが奢り返したりすればいいんだもんね。そういう機会は結構あると思うから、あまり気にしないことにした。





「なーんてこともあったねぇ」
「ああ……うん……」
「まさか財布を落としてたなんて、今思うとさすがの不運だね」
「あんまり掘り返さないで……」

さて時は流れて一年後。再び誕生日を迎えた私は伊作くんをからかっていた。懐かしいなぁと思い出すのは去年の出来事で、伊作くんの不運を目の当たりにしたはじめてのときだった。レジカウンターで顔を真っ青にする伊作くんの姿は今でも覚えている。あのときは思いっきり笑って、私が奢ったんだっけ。後日改めて奢り返してくれたけれど、伊作くんは凄く落ち込んでいた。
私にとってはいい思い出なんだけれど、伊作くんにとっては思い出したくないことか。そろそろやめないと伊作くんが泣いてしまうかもしれないから、私は「ごめんごめん」軽い謝罪で話を終わらせた。

「今日はしっかりエスコートしてくれるんでしょ?」
「……勿論。ちゃんと財布も確認したよ」

苦笑いの伊作くんに、私はそれはよかったと返しながら手を差し出す。ちょっとだけ迷ってから握ってくれた手をぎゅうぎゅうと握り返しながら、私たちは並んで歩き出した。

「じゃあ、まず最初は?」
「まずはリベンジ、ドライブがてらランチを食べに行って、それから水族館をゆっくり楽しんだ後に予約した店でディナーです」
「わあ、楽しみ!水槽が割れる不運だけはフラグを折ってね」
「フラグ?!」

今年の誕生日は伊作くんが計画した一日を思いきり満喫する予定だ。伊作くんのことだから予定外のハプニングもあるだろうけれど、それはそれで楽しみにしている。
去年お祝いしてくれた友人たちはメールで祝いの言葉をくれて、後日祝い直してくれるとのこと。優しい友人を持ちましたと伊作くんに報告すれば気を遣わせちゃったかと申し訳なさそうにしたけれど、他の子だってそうしているのだから気にすることじゃない。つまり、まぁ、彼氏優先、というわけだ。
あれからなんやかんやと月日を過ごし親交を深めていった私と伊作くんは、今現在お付き合いをしていた。去年も過ごしたとは言えお付き合いをはじめて迎える誕生日は、どきどきしないと言ったら嘘になる。伊作くんもそうだといいなぁと思いながら、幸せに頬が緩むのを止められなかった。

「誕生日おめでとう、律子」

伊作くんが声にするそれは去年も聞いた筈なのに全然違う心地がする。去年とは違う関係に照れくささを感じながら、その言葉を受け止めて噛み締めた。



(リクエストありがとうございました!)


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