追記

「作り話をしよう」

ふたりで、部屋でだらだらと過ごしていた日のことだ。
突然そんな言葉を発した三郎は、目を瞬かせる私をおいてぺらぺらと話を紡ぎ始めた。一体何故急にと驚く隙もなく、すぐに私は三郎の話に夢中になった。
かつて、ずっと昔に彼は忍者だったとか、得意とする変装技術を用いて仕事をしていたとか、同じく忍者だった私と恋に落ちたとか、しかし互いに武器を交えたことがあるのだとか。そういった話をドラマチックに構成していて、突拍子もない話なのにリアリティーがある。さっきまで読んでいた能力バトルものの漫画のような熱い展開はないのに、続きが気になって仕方がなかった。
私は相槌を打ち続きを催促しながら、よくできた作り話だと感心する。
まさか三郎にこんな才能があったとは。話が完結を迎えると、私は自分にできる最大限の表現で面白かったと伝える。それに対して三郎は笑顔を見せた。

「今日はエイプリルフールだろう。だからこの話をしたんだ」
「ああ、そういえば」

今日の日付を思い出す。もうちょっとでまた学校が始まってしまう、なんてことしか考えてなかったけれど、そうか、そんな日か。
自分で言うのもなんだけど、私は騙されやすい。だからこの日は恰好の餌食となる。一方で拗ねやすくもあるからきっと後処理が面倒くさい。
しかしこういったイベントは外せない三郎は、お互いにこの日を楽しめるよう作り話というカタチで嘘をついたのだろう。
そう納得する私は、三郎の笑顔がどこか寂しげであることに気付けなかった。
三郎の小さな呟きも、聞こえなかった。



「私がついた嘘は、たったひとつだけなんだよ」

2017/04/03

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