追記

モブ視点



「お母さん」

最初にそれを聞いたときはつい笑ってしまった。先生をお母さんと呼んでしまうことってあったよな、小学生くらいの頃に。今だとすごい恥ずかしいよなとにやにや笑いながらその声の主を見てみれば、四郎兵衛は気付いてないのかいつものふにゃふにゃした笑顔でマネージャーを見ていた。マネージャーは戸惑った様子で対応していたけど、まぁ相手は先輩だもんな、ツッコみづらいよな、と俺は同情しながら練習に戻ったのである。

「お母さん」

しかしながら四郎兵衛のそれは一度では済まなかった。何度もそう呼んでいるのだから故意に違いない。おいおい渾名にしてももっといいのがあるだろ、と四郎兵衛に言ったが「お母さんはお母さんだから」とにっこりしていて、「お、おう」としか答えられなかった。あいつのにっこりはまじで有無を言わせない。マネージャーごめんと心の中で手を合わせた。

「お母さん」
「なぁに、しろちゃん」

しかしながらマネージャーもただでは済まなかった。呼称を受け入れた上にその返し方だ。いつもは親しいながらも『しろちゃん先輩』だったのに一気に距離感が縮まっていた。もしかしたら付き合い始めたのかもしれない。だとしたら何プレイになるんだこれは。ざわざわとする俺たちを置き去りにふたりは練習メニューについての話を続けていた。
これはちゃんと聞いておかなくてはならない。バレー部のオアシスとも言えるマネージャーに恋人が出来てショックを受ける部員も少なくないので、とっととはっきりしてもらって早々に立ち直れるようにしてもらわないといけないのだ。
というわけでふたりの会話が一段落したところで俺突撃。「お前らいつから付き合ってんの?」と直球勝負。ふたりは不思議そうな顔をして、それから言った。

「付き合ってないよ」
「付き合ってませんよ」

何言ってんのこいつ、みたいな感じでふたりは可笑しそうに笑う。解せぬ。そう思ってるのは俺の方だよと頭を抱えながらも、じゃあこいつらの関係は一体何なんだと疑問は深まるばかりであった。

2015/08/23

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