もうすぐ冬なわけですが日中との寒暖差がちょっとよくわかりませんね | ナノ







 回送電車が通過します。
アナウンスのあと、自らの息で靄のかかった視界から目を外せば、隣の男が寒さに身を震わせていた。電車から少し遅れて吹き抜けた風にきっちりとまとまった金の髪がふわりと呪縛から解かれたかのように踊り出る。
 あー、あかん、寒い。
 独り言のように呟いた彼が霜焼けで指先の赤くなった手を擦り合わせてハアと息を吐きかける。それでも白く包まれた世界からゆっくりあらわになった指先は未だ赤い。そんな彼の手を見て、自分の手を見下ろした。豆が潰れ、とりあえずと不格好に固まった無駄に厚い手の平から伸びる指はいつもと同じ肌色で、彼のそれのように痛々しい赤は存在しなかった。なんで、坊あないなっとるんやろ。彼と自分は同じようにポケットに手を突っ込み歩いていたはずなのに。
 そういえば彼は昔からすぐに霜焼けや皹を作っていた気がする。中学の時など顔に似合わない可愛らしい手袋に腹を抱えて笑い、よく鳩尾を喰らったものだ。
 痛そうやなぁ、寒そうやなぁ。
 きっと凄く、その手は冷たいのだろう。そう思いその手を握ろうと手を伸ばすと、その手に気付いた彼が手をポケットの中へとしまい込んだ。
「なんで」
「阿呆か、人おるやろ」
 ショックやわ! とそっぽを向く彼に言えば、もくもくと白い靄を吐き出しながら彼が言う。その言葉にぐるりと周りを見渡せば、確かに。
 ホームには自分達と同じように白い息を吐き寒さに震える人々が居た。彼らも次の電車を待っているのだろう。自分たちと同じように寒そうにして身を縮める姿にもうすぐ冬なのだと季節を感じる。今年は本当に突然寒くなったものだ、と空を見上げる。東京のそれとは違い星の見える空は晴れていて、綺麗だった。そういえば奥村先生が夜空が綺麗な日の翌日はよく冷えると言っていた気がする。
 隣の勝呂へと視線を向け、寒うないですか、と問いかける。そんなん、寒いに決まってるやろが。予想したままの返事が返ってきて思わず声を漏らして笑う。せやね、と笑ったまま、ポケットに引っ込んだ手を引きずり出した。ずるりとそこから出てきた赤い手をぎゅっと握ってみれば、やはり冷たい。何するんや、と噛み付くように唸り声を上げた勝呂に、しっと口の前に人差し指を立てて静かにするようにと促す。

 静かにしてれば誰も気づきませんよって。
 握った手をそのまま自らのポケットへと突っ込むと、引き寄せられた勝呂の肩が一瞬だけ肩に当たり、そして素早く離れていった。
「そのままくっついてはってもええのんに」
「阿呆か、外や言うてるやろ」
 再びそっぽを向いた勝呂の頬が先ほどよりも赤みを増した気がする。それははたして寒さからか、それとも。冷たかったその手が再び熱を取り戻すのを感じながら、ずっとこうしてはればええのに、と笑みを零す。

 待ちわびていた電車のアナウンスが響き渡るホームに、二人の吐き出した息が溶けて消えた。







お友達さまへ。