三度目の正直は二度目も失敗 | ナノ
しゃる、ゆんに無茶ぶる→無茶ぶり返って来る→こうなった











 『最近よう寒くなってきはりました。竜士は元気ですか?』

 そんな内容のメールが母親から届いた。古風な手紙のような文面は携帯の文字表示を明朝体にしている自分にはピッタリであったが、それでも電子のやりとりとしては少々堅苦しい。携帯に映し出される文面はなんとも不釣り合いであった。
 なんと返信しようか。普段あまり触れない携帯を握りしめて考えていると、背中にどんっと重いものが勢い良く当たってきて少し前につんのめった。首の後ろに短い毛がサワサワと当たり擽ったい。
「志摩」
 背中で唸り声をあげているその人物の名前を呼んだ。背を丸めて携帯を見つめる俺の背に、脱力した志摩の体が被さっている。志摩が身動きする度堅い肩甲骨がごりごりと背中を擦る。正直痛い。名前を呼んでも反応のない男に特に言うこともなく、溜息をついて視線を携帯へと戻せばいいポジションを見つけたのか志摩の動きが止まった。
 真白な画面にポインターがチカチカと点滅している。なんと返せばいいのやら。前回似たような文が来たとき一言で返信したらえらく怒られた気がした。何か話の種は。
 二人しかいない部屋の中に沈黙が流れる。一人は携帯の小さな画面を眉間にシワを寄せて眺めており、またもう一人はその男の背に自分の背中をぴたりと添わせて身動き一つせずそこに居る。タッタッタッ。時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。背が重い。そう思い軽く背を揺すると志摩が背中の方で唸った。
「へへ、ぼんの背中ぬくいー」
 お父さんみたいな広い背中やなぁと笑った志摩に父さん言うなと画面から目を切らさず言う。画面は長いこと操作をしなかったせいで暗くなっている。あったかいー。そう漏らした志摩の声が途切れる。
「おい志摩、寝るなよ」
 意味のない文字を打ち込むと再び画面が明るくなった。画面にはあの棒線だけがチカチカしている。無意味に打った『あ』の文字はすぐに消されていなくなった。
 寝るなよ、その発言に志摩が少し体を揺すって重くてすみませんねぇと気怠げに言った。きっと志摩の態度からして俺に構ってほしいのだろうが、生憎いつもこいつの思い通りというのは楽しくない。
 返信を終えるまでは絶対に構わない。
 構ってやらない。

「ちゃうわ、風邪引くやろ」
 そう無意識のうちに呟いて携帯のボタンを押す。
『元気です。』
 さて、このあとはなんと続けたらいいだろうか。文字を打とうとした手は突然抱きしめられた身体の反動で決定ボタンへと逸れた。ぼん、すき!おいやめえや!しがみつくその体を必死になって剥がそうと携帯から手を離した。
「いい加減構ってくれてもええんちゃう?」
 志摩が笑いながら俺の胸へ顔を埋めた。
 うん、やっぱ坊ぬくい。
 反動で押された送信ボタンには気付かず、肩を押されるまま床へと倒れ込んだ。







なんだっけ、たしかナチュラルほも書いてほしいとかなんとか言われた気がした。