笑って、キスして、抱きしめて。おれだけの | ナノ









「…なぁ、志摩…」
「少し…黙っとってくれます?」
 あー…おん。そう歯切れのわるい返事をして視界の隅にチラつくピンクの髪から目を離せば、志摩が俺の身体をより一層強い力で抱きしめた。
 ずるいです、坊は、ほんまにずるい。
 先程から同じ言葉だけを繰り返すそいつに軽く溜息をついて「すまん」と短い謝罪の言葉を述べると、「やだ」と拗ねた子供のようにすべて却下するものだから、俺はただされるがまま、壁に凭れながら志摩の背中をあやすように撫でていた。全く、やたら大人びて見えるくせに突然子供のような物言いをするものだからこいつからは目が離せない。
 何故こうなったのかはわからない。気にいらないことがあったのは確かなのだろうが、それでも原因もわからぬまま謝り続けるのはなんというか…面倒くさい。
「あー…俺、なんやしとった?」
 ピンクの髪をぐしゃぐしゃと撫でながらさりげなく聞けば、わからんの?と言われて口を噤んだ。
 おん、わかりません。
 とは、とても言えずに再び溜息をつけば、突然ぬるりとしたものが首筋を舐め上げる。その感触に引き攣ったような声を漏らせば、這っていた舌が離れ、濡れたそこに吐息を宛てられひんやりと篭っていた熱が逃げる。それからちゅ、と触れた唇がもう一度舌で舐め上げれば、くすぐったいようなもどかしい感覚で背中にぞわぞわとしたものが走る。
 志摩、と名前を呼び制止を掛ければ、俺は止めはるんですね、と志摩がわけのわからないことを口走った。
「…は?」
「坊は奥村クンには好き勝手やらせるんに、俺にはやめぇ言い張るんですね」
 その名前に首を傾げる。奥村?なんでいま奥村が出てくんねん。
「…あ」
 そこでハッと気が付く。ああ、なるほどな。
「おまえ、嫉妬か」
 そう笑いを含んだ声で肩に額をこすりつける男に向かって投げかければ、図星だとでも言うように俺を抱きしめる手に力が篭った。
 奥村は、ああいう奴や。仲のいい相手には過ぎたスキンシップもある。志摩が言いたいのは、俺が今日奥村とハグをしていたことだろう。別に俺がしたかったわけではないが、結果としてはそういうことである。そういえば志摩はその現場に居たかもしれへん。
「…確かに奥村クンは、ボディタッチ激しいし」
「スキンシップな」
「坊もムチムチやから、抱き着きたくなるんわかりますけど」
「ムチムチちゃう、マッチョ言え」
「でも、坊は俺とお付き合いしてるやないですかぁ…」
「…おん」
 半ば泣きの入ったような声で志摩がぼそぼそと言った。坊が他の人に盗られるんみたいなんは、俺嫌ですわ…。蚊の消え入るような声で最後に志摩がポツリとつぶやく。ああ、もう、やっぱり、
 面倒くさい。
 志摩、ともう一度名前を呼んで、俺を見ぃや、と命令口調で言えば、涙目なそいつが背中に回した腕を解いて俺を睨みつけた。ほんまに、面倒な奴やなぁ、こいつは。
 なんですか?と膨れっ面で言った志摩の頬をつまんで、阿呆と笑う。
「俺が好きなんはおまえだけや言うとるやろ?」
 せやから安心しときぃ、と赤くなった鼻にキスを落とせば、志摩の顔がぶわわっと紅に染まる。それを見て満足げに鼻を鳴らせば、坊はずるいわ…悪女や…と意味のわからないことを言った志摩が再び俺を抱きしめる。
「坊、」
「おん?」
「おれも、好き」
「おん」
「坊大好き」
「おん」
「愛しとる」
「ははっ、…おん」
 志摩の背に腕を回しこちらもぎゅう、と抱きしめ返し、機嫌直ったか?と笑えば、はい、と小さな声で志摩が唸った。
「坊がセックスさせてくれはったら完璧に治るで」
「調子乗んな」
「…へへ、」
 再び好きだと口にした志摩に、俺も、と返せば、顔を離した志摩がいつものだらしない笑みを浮かべキスを強請った。
「ガキぃ」

 そんな恋人に悪態をついて、俺はその頭を引き寄せた。






幸せって、ヤキモチって、なんだっけ(白目)
キリリさんからちゅっちゅしますぐもらったからお返しに送り付けます^////^