それは誓いなのだ | ナノ
二人とも30くらいの話。志摩視点。










 あのとき彼に打ち抜かれた胸は未だ癒えることはなく、じくじくと化膿し身を蝕む。
 そこへ優しく触れて彼は泣きそうに笑った。

 勝呂竜士は俺の光だった。
 怖面な彼はその割にはよく笑う。昔のように人懐っこく笑う彼はいつも俺の歩む先にいて、下を向いて俯き死んだように日々を繰り返す俺は、その光に導かれ顔をあげ、貫かれた。
 そのとき思ったのだ。ああ、俺はこの人に着いていくと、俺はこの人の望みを叶える為に存在しているのだと。
 俺は勝呂竜士が大嫌いだった。自分の持っていない物を持ち、自分には到底出来ないことを成し遂げる彼に嫉妬していた。でも、それは彼も一緒で、彼は俺の持ち得ない物を持っていたし、俺も。それに気付いたとき、嫉みは愛情に変わり、醜いと思い続けた笑顔に魅力を感じた。可愛いとは表現しにくい男前に、俺は恋した。

「痛むか」
 廉造。彼はそう言って俺の顔を覗き込む。その顔の脇を降り落ちる真っ白な雪が頬へ触れ、溶けた。微かな体温を奪い、白が透明へと還る。全てはいつか消えるのだ。俺も、彼も、この痛みも、いつか。
 彼の心配そうな言葉に首を降り、笑う。ぼん。呼び慣れたその愛称をなんとか喉から搾り出し、笑って、と。俺の声に一瞬目を見開き、彼は笑う。

「好きや」

 景色が一変した。
 探しつづけた結論はこの痛む胸の先にあった。愛しい笑みを浮かべる彼の顔の横をひらひらと薄い桃色の桜の花びらが舞う。それは俺の頬に落ち、そこに残ったままだった。消えない。全てはゼロへと還元していく。それでも、この世には消えないものもあった。
 光だ。彼が俺を救い出した光は消えない。その小さな光は、俺の中の勝呂竜士は、消えない。一生。

「俺も好きです」

 なぁ坊。ちゅーして?
 ぽっかり空いた胸が満たされる。彼によって貫かれた胸はもう痛むことはなかった。がさがさの唇が触れ、ぽたりと瞼に雫が落ちる。
 彼が流す雨は温かく、閉じた瞳の奥を淡い光りが優しく照らす中、意識は混沌へと消失した。


 再び瞳を開くと、青い空をゆっくりと雲が流れていた。欠伸を一つして伸びをすると、後方から俺を呼ぶ声が聞こえた。その声に振り向いて彼の名を呼ぶ。
「竜士さま」
 いつまでそうしてるつもりや、廉造。
 はよう来い、と手招きする彼に、縁側から立ち上がる。ふわりと吹く風に春の訪れを感じつつ、左胸に手を添えた。
「今、そちらへ」









あみちゃんお誕生日おめでとう!
『out of the hole』/【蓮】