貴方の七ツのお祝いに 迎えに来ましたかぐや姫 | ナノ
あさきさま好きですな半端ロディしますぐ。













「この子は7つの誕生日に殺されるであろう」

 勝呂竜士は5つのとき屍のように窶れた老婆に宣告された。それは呪いのはじまりだった。彼の身近の人間は動乱し彼を暗く冷たい祠へと閉じ込めた。ここなら邪悪なものは入れないと、四方を見張りで囲んで。それまで人の愛に包まれ生きてきた少年ははじめて孤独というものを感じた。それまで笑顔で彼に接してきた人間は口を閉ざし、一日三度の食事さえ小さな窓から差し出されるだけ。それでも挨拶程度に言葉を交わすことが出来たが、暗闇からはその顔を覗けない。蝋燭が燈す薄暗いその箱が彼の世界のすべてになった。与えられるものはすべて温かみのない無機物で、今が昼か夜かもわからず、いっそ死んでしまえば楽なのにと泣いた。その涙で溺れてしまうのではないかと思うほどに彼は泣いた。そんな彼にも笑える時間があった。数ヶ月が経ち、三度の飯を持ってくる使いの者が変わった。名を柔造と言った。彼は今までの番とは違いよく喋った。外の様子を伝え、彼の両親からの言葉を伝え、書物を一日に三冊寄越した。自分にも貴方と同じ歳の弟がいるんだと明るい声で話した。彼は柔造という有機物を手に入れた。しかし欲とは尽きないものだ。はじめは話しているだけでよかったのに何年居てもなれないこの箱から出たいと望むようになった。彼がそれを強く願えば願うほど柔造は口を閉ざした。そして、いなくなった。彼はまた一人になった。はじめて寒さを覚えた。寒かった。寒くて震えた。「おめでと、俺」彼は6つの誕生日を迎えた。あと1年でここから出れる。なのに不思議と嬉しさは感じなかった。自分はあと一年で死ぬ。死そのもののような君の悪い老婆が自分を指差し告げた呪いは大きくなった彼を蝕んでいた。

そこにあれが現れた。「ぼん」そう自分のことを馴れ馴れしく耳元で呼ぶ、あれが。あれは彼と同じ箱のなかに居た。あれは彼の話し相手になった。あれは彼を好きだといい、あれは彼にさまざまなものを与えた。誰も入れない祠にあれは現れ、姿は見えないのに彼に触れ、彼に名前を教えた。俺はアンタをずっと見てきた、アンタを理解して救えるのは俺だけなんや、とその頬を流れる涙を冷たい手で拭った。あれは彼の初めて出来た友達だった。彼が誕生日を迎える晩のことだった。アンタの7つのお祝いに、俺の姿を見せようとあれは耳元で笑った。アンタが恐れている全てを俺が消したる、と。彼の額に冷たい何かが触れた。

そして彼は誕生日を迎えた。祠の外で懐かしい母の声を聞いた。嗚呼俺はここから生きて出ることが出来るのだと身を震わせた。がちゃりと錠前の外れる音がしてぎいと軋んだ音と共に祠がゆっくりと開かれていく。外から刺す陽の光が彼の網膜を焼いた。真っ白になった世界で沢山の人間が彼の名前を呼んだ。そして、その一瞬、眩しさに目を閉じたその瞬間彼の目の前に影が差し、歓喜の声が悲鳴へと変わった。坊、とあれが彼を呼びその身体を包んだ。お迎えに上がりましたとそう言って彼を強く抱き締める。息が出来ない、と声を発しようとするとあれが冷たい何かを彼の唇に押し付けた。それは軽く湿っていて、柔らかかった。ぼん、と誰かが自分の名前を叫んだ。彼はその声をよく知っている。彼が手に入れたと過信した者が発した叫びだった。柔造?とその名をうつろに呼べば、続いてあれの名を叫んだ。何故、柔造があれの名を。そういえば彼の亡くなった弟の名はなんと言っただろうか。坊、いきましょう。あれがくすくすと笑いながら彼の身体を空中へと引き上げた。彼の目は未だ白昼しか映さない。

「廉造、」

これからもずっと一緒に遊びましょう。あなたの七つのお祝いにあなたを素敵な世界へ御招待します。そう言って彼を包んだ身体はやはり冷たく、遠のく意識の中彼は笑いながらあれの手を握った。