俺は貴方に出会えて本当によかったです。 | ナノ
※ 彼の死から一年。どうか安らかに、影山総帥。






















 曇りか、と気味の悪い明るさに空を見上げた。今日は確か十六夜で、晴れていればもっと明るい夜だったのかもしれない。そうして、思い出す。嗚呼あの人が死んだあの日もこんな明るい夜だったかもしれない。あの人の死からもう10年が経った。中学の、あの必死に行き急いでいた最中に俺の前に現れ、俺の人生を狂わせたあの男は、結局一人のサッカーを愛しすぎた男として散っていった。無残な最後だった。せめて故郷へと日本に運ばれた遺体は修復を終えて尚傷付き、総帥、とその名を呼べば涙が溢れた。歪む視界にゴーグルを外せば、さらに涙が溢れたのを覚えている。ああ、総帥。あなたは何故笑っているのですか。微笑みながら眠るその身体は触れれば壊れてしまうのだと。最後に冷たいその手を握り別れも言えぬまま、この目にはあの微笑みが焼き付けられた。あれから、10年。ゴーグルの向こうの世界はあの頃と何も変わらぬままそこにあった。自分は総帥、と彼のように呼ばれ、彼と同じ立場にいた。やっと彼と同じ景色を見れたとほくそ笑めば、まだだ、鬼道と嘲笑う声が聞こえた気がして、そうですね総帥。と呟く。まだ、貴方と同じには、早いのかもしれません。雲の切れ間から丸い月が顔を出した。明るくなった道の、その向こう。自分の進むその道に、彼は立っていた。影山総帥。彼の名を呼べば、彼は笑う。鬼道、立派に成長したな、と彼らしくないセリフで、鼻を鳴らした。影山総帥。もう一度名前を呼んで、ゴーグルを外す。月を雲が多い、周囲が暗さを取り戻すと同時にその影は消えていった。追い求めるその姿は既にそこにはなく、詰めた息を吐き出した。ああ、総帥。再びゴーグルをつける。貴方にはまだ届きそうにない、と空に向かい笑う。

「もう一度会いたいと言ったら、貴方は笑いますか」

 とうとう最期まで一緒にサッカー出来ませんでしたね。揺らぐ視界の向こうで、月だけが俺を見ていた。