古きよき物にはよき魂が宿るとかそんな感じの言葉あったよね | ナノ
中学生なしますぐ


















 彼が幼かった頃、もらったのだと自慢された念珠が凄く羨ましかったのを思い出した。まだ真新しいそれに、ええなぁと手を伸ばせば、触んなや!と怒鳴られて手を引っ込めた。
『柔造がくれたんや!俺のやからな!』
 その念珠をぎゅっと抱きしめて自分の視界から遠ざける彼が、俺は何だか無償に腹だたしかった。自分の兄が彼にはあげて何故自分にはくれないのだろうかと考えるより、何故彼が自分と喜びを共有しないのかということに、だ。
 今思えば彼にとってはあれが精一杯の共有だったのかもしれない。それでも、そのときの俺はまだそこまで彼に忠誠を誓うこともなければ人の気持ちを考えるなんて道徳的なこともわからなかった。
 心の奥底でこいつ嫌いやわ、と吐き捨て、作り笑いでドケチ、と彼に言い放った。そうすることで彼が自分と同じように傷付く事を臨んだ。


 何考えとんのや、と首を傾げた彼がン、と唸り俺に手を出すように催促した。はっとしてン、と同じように声を発して両手を前に突き出せば、その手に落とされたのは使い込まれた念珠。あの時、彼が自分には触らせなかったもの。
「っこれ、坊が大切にしはってたんや…!」
「ええんよ、お前にやるわ」
 もう大分古いしなぁ。そう言って彼が両手を突き出したままの俺の手首に念珠を通す。おん、よく似合っとる。
「いつかお前にやろうとずっと思っとったんや。ソレ、昔欲しがってたやろ?」
 流石にあん時はやれんかったけどなぁと彼が笑った。ああ、彼はあの時の事を覚えていたのか。自分は盗るつもりはなかったのに、あの時、彼は自分の貰ったものを盗られると思ったのだ。ドケチ。あの時彼に笑顔で言った言葉がフラッシュバックする。あの時の俺はやはり、そんな事は考えようともしていなかった。
 所々傷のついた念珠を見つめ、ありがとうございますと呟いた。彼から物を貰えた事が嬉しくて、顔を上げて微笑みかけると、彼も照れ臭そうに笑った。
「志摩、俺と一緒に祓魔師なるんは、簡単な事とちゃうで」
 しっかりついてこい。
 ソレにはまじないつきやから、と悪戯に笑う彼の腕を引いて唇を奪う。一瞬にして顔を朱に染めた彼に、これで大丈夫やわ、と見せ付けるように唇を舐める。
「…っ、ほんま、しゃあないやっちゃなあ」
 彼が目を細めて幸せそうに笑うのをみて、俺幸せモンやなぁとその身体を抱きしめた。

 念珠って以外と長く持つんやねぇ、坊の手入れがええからやないの?そんな会話をしながら子猫丸が俺の腕に手を伸ばす。こんな風にされた時、坊は盗られる思うたんかぁとくすくすと思い出し笑いをしていると、子猫丸の温かい手がそれに、そして自分の肌に触れた。
 ええなぁ志摩さん、羨ましい。そう笑う子猫丸に、子猫さんも坊にたかってくればええんよと冗談を言って、その念珠に口付けた。愛しさに忠誠に、ほんの少しの決意を込めて。

 あの時より大人になった俺の彼への忠誠は、お父のソレのように強くはないかもしれないけれども。
―――…嗚呼、念珠、切れてもうた。
 あの頃よりは、ずっと、深く。この念珠が切れても、途絶えることはなく。






―――…坊、無事やろか。
 そう、それはずっと先の話。









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※ 続きません。