ゆんさん好きです。大好きです。 | ナノ
ゆんさんがツイッターで呟いておられたしますぐオフィスパロを拝借致しました。いつも素敵な萌えをありがとうございます大好きです//ピクシブに投稿したものと同じです。デイリー42位ありがとうございます!













 あかん、まじで腹立つ。
 沸き上がる憤怒を押さえ付けようと、勝呂は突き返された資料を握り締めた。俺が求めてるのはこういうのじゃなくてさぁ。そう人を見下し薄ら笑いを浮かべる上司を睨みつけると、そんな恐い顔すんなよと茶化される。
 馴れ馴れしく肩に手を置かれ、その手が身体のラインに沿って腰に当てられる。身体を悪寒が走りその手を無意識に払いのけると、ちっ、と大きな舌打ちが聞こえて、さっさとやれよ無能、と吐き捨てられる。勝呂は唇を噛み締め身を翻したその背中を再度睨みつけた。
 自分の仕事くらい自分でやらんかい、と喉元まで競り上がってきた文句をなんとか飲み下し、自らも踵を返す。悔しさで胸がいっぱいだった。どうしてあんな奴が自分の上司なのか、全く意味がわからない。ただの阿呆ではないか。
 廊下を突き進み階段を駆け上がる。切れる息など気にせずに一段飛ばしで2階から4階まで一気に上がって突き当たりの資料室へと急ぐ。ポケットへ手を突っ込むと、手の中でその部屋の鍵がチャリッと揺れた。

 勝呂竜士。彼はこの会社を経営する勝呂グループのトップ、勝呂達磨の実の息子である。勝呂はいわば跡取り息子であり、自らもその自覚を持ってこの会社へ入社した。それでも特別扱いされることは苦手で、会社には息子ということはなるべく隠し、公表しようとした父にはそれをやめさせ、実力で上り詰めると断言した。
 昔からこの会社の重鎮として働いている志摩や三輪、宝条の人間は自分が跡取りであることを知っているが、そこに関しては既に口止め済みである。
 そんな風に決意表明して仕事に臨んだわけだったが、現実は目標とは天と地ほどの差があり、なかなか上手く回らないものである。
 幼なじみで恋仲にある志摩廉造はサクサクと地位を上げているにも関わらず、自分は未だ平のままだった。そこには生まれつき目つきが悪いことや、コミュニケーション力の不足などの要因があるのだとはわかってはいたが、彼を苦しめているのはそれだけではなかった。

(あンのセクハラ上司…!)
 悔しさで滲む涙を落とすまいと目を見開き、資料室の扉へ手をかけた。ガチャ、と容易に回ったドアにびくりと肩を強張らせる。ここは自分の所属するオフィス専用の資料室で、その鍵は今自分の手の中である。昨日最後にここの鍵を閉めたのは自分だ、開いているはずがない。

 乱れた息を少しでも落ち着けようと、大きく息を吸う。吐き出しながらノブを引くと、薄暗い資料室の中を蛍光灯が照らしていた。
 誰が居るんや?と辺りを見回しながらゆっくりドアを閉める。その時奥の方から紙を擦る音が聞こえて、勝呂はそちらの方へと足を進めた。

「…なんや志摩かいな」
 無意識のうちに堪えていた息を吐き出して見慣れたピンクの頭に笑いかける。ピンク頭が資料を棚に戻して振り向いた。
「なんや呼び捨てですの?ここは会社でっせ、勝呂くん」
「やめえ、誰も居らへんやろが」
 そうやったなぁと笑う志摩に何で入れてん、と聞けばスペア借りたんやと平然と言ってのける。自分よりも先に出世した志摩は、今は違うが元は同じオフィスである。多少の融通は聞くのだろう。投げ返されたスペアキーを片手でキャッチしてポケットへと突っ込んだ。
「なんや汗かいとりますなぁ。急いどったん?」
 志摩がポケットから取り出したタオルハンカチを勝呂の額に押し当てる。乱れた前髪を横に流し、垣間見えたそこにキスを落とせば、勝呂がくすぐったさに身をよじった。
 先程もちらりと話には出たが、二人は恋人同士で、同棲までしている仲である。多少の出勤時間のズレはあれど、毎日同じ家から通っているのだ。ここは会社ですよ、志摩さん、と何度もキスを繰り返す志摩にクスクスと笑いながら勝呂が言えば、今は二人きりやんかと志摩も笑って返した。
 仕事中だけかけている勝呂の眼鏡を志摩がひょいと取り上げて、勝呂の背中を資料の棚へと押し付けた。
「志摩、待ちいお前勤務中やぞ」
「ええやんか、ちゅーするだけやさかい、目ぇつぶって、坊」
 幼い頃からの愛称を呼ばれて、勝呂は悪態を付きつつ近付いて来る顔を見て目を瞑り、目の前にあった肩へ手を伸ばした。ちゅ、と可愛らしいリップ音と共に唇が離れて、目を開けると、もう一回と志摩がねだる。

 坊汗かいとるし、息も上がっとってほんまエロいわぁ。至近距離で見つめられそんな風に目を細められて言われたら、と勝呂は背を震わせた。しゃあないな、と今度は自分から顔を近づけたとき、胸ポケットの中のPHSが突然鳴り出し二人の肩が跳ねた。
「あああなんやのこのタイミングで!誰です?」
「あークソ上司からや」
 通話ボタンを押してPHSを耳に押し当てる。勝呂です、と電話の向こうのあの″無能な″上司に言えば、ああ勝呂か、と纏わり付くようなベタベタとしたいやらしい声が自分の名前を口にした。反射的に顔が歪んだ。
 今どこにいるんだ?資料室ですが、どないしはりました?ちょっと頼みたい事があってな、会議室まで来れるか?
「会議室?今日ミーティングかなんかありましたっけ?」
 不思議に思い聞き返すと、目の前の志摩の身体がびくりと強張った。どないしてん、と口をパクパクと動かしながら志摩の顔を見上げると、志摩がいつもは見せない怒りの表情でこちらを睨みつけた。驚いて耳からPHSを遠ざける。
 志摩?と上司の事も忘れてその名前を口にすると、志摩が乱暴に勝呂の手からPHSを奪い取る。お前何すんねん!と声を荒げてその手から再び奪い返そうとすると、その腕を痛みを感じるほどの強い力で掴まれて言葉を詰まらせた。

「今日会議室は明日の会合の件で一日閉鎖になっとるんやけど、何に使うつもりなん?」
 志摩が眉間にしわを寄せたまま自らの上司に淡々と言葉を紡ぐのを、勝呂はただただ見ていた。
「なんやアンタ勝呂くんに阿呆な事しとるらしいけど、それ、俺が上に報告してもええんやで?………ならさっさと仕事戻りや、勝呂くんは今俺の用事で忙しいんやさかい」
 志摩がそう告げて電話を切り、勝呂へ視線を向ける。
「何で俺に言わなかったんです」
 志摩がPHSを勝呂の胸ポケットにしまう。その表情は先程とは違い、怒っているというよりは淋しそうに見えた。言わなかったというのは、あの上司から受けていたセクハラの事だろう。
「せやしそこまで酷うもんやなかったし、いちいちお前に心配かけよるんも、っつ、志摩、いた…っ」
「酷なかったやと?アンタわかっとるんか、今のアレ、アンタ俺が止めへんかったら犯されとったんやぞ」
「…は」
 掴まれた腕の痛みに伏せていた顔を上げた。先程の言葉が理解できない。今、なんて、と聞き返せば、子猫さんが教えてくれはった、と志摩が呟いた。
 子猫丸も志摩ほどではないが彼と同等に出世コースを歩いていた。どうしてその子猫丸がそんなことを知っているのかと思考を働かせると、そういえばあの上司と子猫丸は同じプロジェクトを受け持っていたかもしれない。
 再び顔を俯かせ、すまん、と詫びると、頭上で息を吐く音が聞こえて、腕を引かれた。バランスを崩して前のめりになった身体を志摩が受け止め抱きしめる。
 アンタ、阿呆や。志摩が消え入りそうな声を勝呂の耳元で零した。勝呂の肩に顔を埋めて、どれほど心配したか、と呟く。
 そこで勝呂は理解した。ああ、こいつそれでここに居ったんやな、と。俺のことを子猫丸から聞いて、居ても立ってもいられんようになって、俺のこと探してたんやな。
 その背中に腕を回して堪忍、ともう一度謝罪の言葉を述べて、愛しとる、と志摩の肩に額を擦り付けた。
「そんなん、俺もですわ」
 坊、愛しとる。そう言われて、勝呂はその身体を抱く腕にさらに力を込めた。






※ この先エロにつき注意