その鎖をぶった切ってやるなんて言えないくらいにはヘタレ | ナノ















 特別なんて求めるよりもただ傍に居たくて。傍に居るとどんどん欲が沸いて来て特別になりたくなって。
「勝呂くん」
 その背を後ろから抱きしめて首元にキスをする。びくりと跳ねた肩にその顔を覗き込めば、とても幸せそうには見えなくて。
 ごめんなさい。と一言謝罪の言葉を告げてその身体から離れると、なんで謝るんや、と勝呂が呟いた。熱を秘めた身体から遠退く自身の体温が驚くほど低い気がして僕は息を呑む。
「君が幸せそうに見えないから」

 こんな冷たい身体で愛を囁いてもきっと彼は僕の元へは堕ちてこない。君はまだ、彼の腕の中に居るんだから。
 そう言いかけて、僕は唇を噤んだ。わざわざ君が自ら僕の元へ来たって言うのに、それを気づかせる理由がどこにあるのだろうか。あざといな、と自嘲する。ここまで彼に執着する自分はさぞ滑稽な事だろう。
 幸せや、と小さな声で嘘を付くその背中へ目を向け薄ら笑う。自分も相当滑稽だと思うが、目の前の男はもっと浅はかだ。自らのそれが報われない恋だと錯覚し、恋に苦しみ、愛を求めて僕に縋り付く。僕の気持ちを知っていて、それを利用しようとし、罪悪感に胸を沈ませる。馬鹿な男だよ、君は。
 嘘は付かなくていいんだ。すぐに慣れなくても、いつか僕の胸の中が君の居場所になってくれれば、それでいい。
 振り向いた彼は泣きそうに微笑んだ。開きかけた唇が、まるで僕じゃない他の誰かにそう言われたかったと言いかけた気がして、君は馬鹿だな、と微笑んだ。僕の笑顔も君には泣いているように見えただろうか。

 もう一度腕に閉じ込めた熱が全て僕のものになったらいいのにと思った。僕じゃない他の誰かの熱が包む君を、僕の熱で包んであげられたらいいのに。

「坊、おいで」

 その一言にどうか君が惑わされないように。












しますぐ←雪。
おかしい私は幸せなものを書きはじめたはずだった。クズ志摩を吹っ切ろうとする勝呂くん。クズ志摩好き殴らせろ