あの日の思いも思い出として語れるようになりました | ナノ










 その日、彼は父親になりました。
 泣きながら僕たちにその小さな愛の結晶を見せる君に、僕はちゃんと笑えていたでしょうか。



 子猫さん。おん?好き。うん。好き。うん。好き。
 「僕かて志摩さんの事好きですわ。何度も言わんといてや、照れるやろ」
 中学生の頃の僕たちは純粋で、矛盾だとか世間体だとか、そんなものはまだ気にならなくて。ただお互いに恥ずかしげもなく愛と呼ぶには幼過ぎる恋を口にして、身体を寄せ合って笑っていられるだけで楽しくて。
 何もせずに二人でぼーっとしているのも好きだったし、あの頃はなんだかんだ言っていたけど、放課後の教室で皆には内緒でキスをするのも、帰りに手を握り合うのも、僕は嫌いではなかった。
 君はそれを幼い恋だと笑うだろうか。いや、君はとても幸せだったと微笑んでくれるだろう。その笑みが僕を傷付けると知っていても、僕を慰めるために笑うだろう。

 恋人としての終止符は僕が打った。高校2年生。どんどん深くなる口づけに、愛に、僕が恐くなってしまったから。
 この先が想像出来なかった。いつかこの関係が終わるのだと思うと恐くて、彼が愛しくて、彼を傷付けるとわかっていても、僕は彼に別れようと言うしかなかった。
 幼かったのは自分だけだったのかもしれないと思うほど、彼は優しく笑って、ええよ、と言った。彼は全て知っていたのかもしれない。このちっぽけな胸に収まり切らなかった感情を、彼は全て優しく包んで微笑んだ。
 どうして嫌だと言ってくれないんだと悔しさと虚しさと切なさでいっぱいいっぱいになった僕に、ごめんと先に謝ったのは君だった。君は僕よりも辛いはずだったのに、最後に僕を抱きしめて触れるだけのキスをした。
 次の日から友達に戻るんやね、と言った君に頷く僕はどんな顔をしていただろうか。泣いてしまっただろうか。幸せだったと笑う彼に、僕も笑い返せていただろうか。
 生まれて初めての失恋だった。それでも、次の日彼がいつものようにおはようと笑いかけてくれて、僕はとても嬉しかった。やっぱり君が好きだと少し泣きそうになったけど、これでよかったと思えたのだ。

 あれから何年が経っただろうか。
 彼から渡された小さくも力強い命を目の当たりにして、目尻が熱くなるのを感じた。何泣いとんのや、と肩を抱かれて笑っている勝呂を見上げれば、彼の目も赤く潤んでいて、涙を乱暴に拭いながら志摩も笑った。
 立派になった彼に、おめでとうと心からの祝福の言葉を述べると、もう抑え切れなくなって僕は泣いた。その涙は切なさや悲しさではなく感動だった。彼によく似た命が、僕と過ごした時間を幸せだったと言った男の息子が、僕の腕の中で笑った。
 おおきにな、子猫さん。
 そう少し照れ臭そうに笑った彼を改めてみなさんに紹介したいと思います。

 志摩廉造、僕の大切な友人です。














幸せって何だろうと思ったら書いてました。しまねこ可愛くて大好きです。