瞳の奥で遺伝子が交わる死刑執行 | ナノ







 何がしたいと聞かれたのでほんなら腹上死がしたいですわと叫べば、阿呆!と頭を叩かれた。だって坊が聞いたからでしょうと顔を上げながらそっぽを向いたその顔を覗き込めば、嗚呼、ほんまにかいらしいんやから。
「坊、顔真っ赤になっとりますえ?」
 うるさいと片手で顔を覆ったその仕草がまた堪らなくてもっとよく見たいと顔を近付ける。彼の空いた方の手が自分の方へ伸びてきてぐいと顔を押される。そないな事されたら坊の顔見れんと愚痴を零せば、見んでええなんて可愛くない反応が返ってきて笑った。
 そないな事言うとっても、俺を掴んで離さんのはアンタなんやで。
 頬を押すその手を掴んで恭しく口付ければ、勝呂の肩が大袈裟に跳ねた。再びかち合った視線に志摩が口角を上げれば、どこか困ったような顔をした勝呂が弱弱しく志摩、と自分の名前を口にした。先程までの威勢のよさは何処へ行ったのか急に大人しくなった勝呂のその手を口に含めば、小さく息を呑む音が聞こえた。掴んだ手首から伝わる脈拍はいつもよりも速く、自らの心拍数も彼のそれに伴うようにトクトクと強いものへとなっていく。
 ぴちゃりと音を立てて挑発的に視線を向ければ、半開きになった勝呂の口から熱を帯びた吐息が零れる。自分に釘付けになっているその瞳が半透明な涙の膜の所為かきらりと光った。そう、その瞳の、中。
 そこに自分が居た。いや、そこに囚われているのだ。いつだって、彼の瞳の中には自分が居て、離してはくれない。
「…っ、…し、ま…ぁ」
 再び名前を呼ばれた。愛撫していた指を口から離してなんですのん?と顔を近付ければ、勝呂の口がパクパクと開閉を繰り返す。もう一度、先程よりも優しく何?と聞けば、一度視線を外した勝呂が最高に熱い吐息を吐き出して志摩の目を見つめた。

「…キス、しぃや」

 あくまで命令形なその言葉とは裏腹にTシャツへと伸ばされた腕に背が震えた。ええよと笑って勝呂の額へ自らのそれを合わせれば、自然と口が動いた。
「好き。」
 細められた彼の瞳を縁取る睫毛が綺麗で、同じように目を閉じた。その瞳の中は、自分の特等席だった。彼の瞳に映るのは、自分だけでいい。背へと回された腕に、勝呂もまた、自分の瞳の中に閉じ込めておければいいのにとそんなことを考えながら、唇を合わせた。
(坊、やっぱり俺アンタの腹ん上で死にたいわ)







続く。多分。
もう勝呂くんが可愛くて可愛くて甘やかす志摩くんが書きたかった。人はこれを7巻ショックと呼ぶ。