離れるっちゅうことは、再会への通過点なんやで?2 | ナノ








「あー、やっと着きはりましたなぁ」

 ちらりと腕時計を確認すれば、ちょうど3時を過ぎた所だった。あと30分も待つのか、と欠伸をかみ殺せば、あ 今坊欠伸したでしょ?と嬉しそうに言われて、やかまし!と叫ぶ。とりあえずとホームに入って二人で椅子に座ると、なあ坊、と志摩が俺の名前を呼んだ。

「なんや」
「…坊、俺、ほんまは行きとうないです」

 息が詰まった。
 組んだ腕が硬直したのが自分でもわかった。視界の隅で志摩がこちらを見ているのがわかって、自らもそちらを向けばいいのに、まるで金縛りにあったかのように動けない。必死に喉を動かして、お前、何言うとんのや、と声を搾り出す。志摩が静かに、行きとうありません、と繰り返した。
 深く息を吸い込んで、ゆっくり吐き出すと、固まっていた筋肉が解れてきた気がして、組んでいた腕を解く。途端にその手を志摩が握り締めた。体ごと志摩の方へ向き直れば、視界の隅の苦しそうな顔を両目がしっかりと捉えた。お前、何でそんな顔しとるんや。しっかりしいや。そう言いたいのに、口が開かない。緩めたらわなわなと震え出しそうで、ギリ、と奥歯を噛み締める。ただ、何も言えずに志摩を見つめていた。
 だから、動けなかった。遠慮がちに近付いて来る唇を避ける術がなかった。わけがわからなくて、唇に触れた湿った感覚が離れていっても、俺は言葉を発する事も出来ずにただ固まっていた。そんな俺を見て、ほんのりと頬を赤く染めた志摩が笑う。

「坊、目ン玉飛び出そうになってはりますえ?」

 そこでハッと我に返って片腕で唇を覆って背をそらした。こいつ今俺にキスしよったんか!?は!?状況を理解するなり恥ずかしさやら緊張やらで顔が火照りだす。体も熱い。

「おっ、ま…何しとんのや!」
「あっはっは坊真っ赤になりはってかいらしいなー」
「なっ…!何言うとんの…って違うわ!阿呆!」
「好きです、坊」

 ニコニコと笑いながら志摩が言った。ずっと前から、俺坊が好きでした。友達としてとかじゃなくて、恋愛対象として、好きやったんです。だからほんまは行きとうありません、と志摩が寂しそうに笑った。馬鹿みたいに顔が熱い。耳元でドクドクと拍動が聞こえて、血液が物凄いスピードで体を駆け回るのを感じた。まさか自分がそんな目で見られていたとは。思いもしないタイミングでの思いもしない告白に、何と言ってよいのかわからない。ただ、俺は自分でも気付いていた。志摩の気持ちが嫌ではないことと、そして、心の何処かで嬉しいと感じていることに。
 今までこんな気持ちになった事があっただろうか。いや、こんな気持ちは初めてだ。こんなに色恋沙汰で心を取り乱したことなど、生まれて初めてである。どうしてよいのかわからずにただだらし無い顔でにやける志摩を睨みつけていると、急に志摩が真剣な顔になって、坊は?と首を傾げた。

「動揺してはりますよね。すんません、しばらく逢わないんでぶちまけたろーと思って。迷惑だったら帰ってきぃひんので、言ってください」

 そう言って先刻と同じように苦しそうな顔をした志摩が俺を見つめた。俺の手を握り締めたままの志摩の手に力が篭る。震えていると感じるのは気のせいではないだろう。開いた俺の口もわなわなと震えているのがわかる。ああこれだから嫌やったんや。羞恥で死にそうだった。

「俺も好きや」

 えっ、ホンマですか!?とパアアアと効果音が付くくらいに元気を取り戻した志摩が赤い顔で俺に尋ね返した。何度も言わせんなや、と目尻を抑えれば、ぎゅうっと抱きしめられた。ああホンマ好きです、やっと言えたわ、大好きです坊。恥ずかし気もなくそんな言葉を口にする志摩に少し微笑んでその背中に腕を回して、肩に額を預けた。




 坊、泣かんといて下さい。そう言って志摩が俺の頬に伝った涙を舌で舐めた。俺、坊を守れるようなエライ強い男になって帰ってきますから。愛してます。
 閉じた扉の向こうで、志摩がニカッとここ一番の笑みを見せた。小さくなる電車を見送ってから一度大きく伸びをして空を見上げれば、太陽が顔を出し始めている。早う帰ってきいや、と呟いて俺は一人来た道を引き返して行った。







---------------
ツイッターの「30分以内に6RTされたら、駅前で、泣きながら髪にキスをするしますぐをかきましょう。」お題より。お題改めて見返したら全然違うやんけwww私のばかん!
なんかもう捏造ばっかりでごめんなさい本当ごめんなさい。限られた時間で奮闘するのは遅刻魔な亀には辛いです。あと京都にお住まいの勝呂くんお友達になって下さい京都弁がわかりません。



























オマケ。
「坊ーーー!!!!」
「おわっ、なん…志摩!?お前何しとるんや!」
「キリク忘れて帰ってきました!!!!」
「阿呆!!!!」
子猫さん出せなくてごめんなさい愛してます。