離れるっちゅうことは、再会への通過点なんやで?1 | ナノ
※ 5年後くらいのしますぐ捏造。

















 思えば、今まで離れることなんてなかった思う。俺等は意識せんでも一緒に居ったし、むしろ離れるっちゅう意味すらわからんかった。ただ、今ならわかる。ああ、これが離れるいうことなんやろな。前からボーッとは考えとったはずなんやけどなぁ、いざこうなると人間弱い生き物やなあ。

「坊、そない俯いて歩いてると電信柱にぶつかりまっせ」

 ははは、と笑われて慌てて顔を上げる。坊はいつも早起きさんやからな、こない時間はかなーり眠いんとちゃう?なんて志摩が笑いながらまだ暗い空を指差した。眠とうないわ、ガキ扱いすんなや!と唸れば、すんませんと昔から変わらない笑みで志摩がへらりと謝罪の言葉を述べ、後ろへ向けた顔を前へ戻した。
 共に歩み共に生きてきてもう何年だろうか。お互い祓魔師として立派に悪魔と闘うようになるくらいには、時間が過ぎた。坊は後継ぎなんですから、俺等がちゃんと子守りせなアカンなあなんてふざけあった学生時代が懐かしい。目の前の背中は昔のような頼りないものではなくなって、一人の男のものへと変わっていた。
(俺は、これからもこいつの背を見て共に闘っていくんやと勝手に思い込んどった。)
 考えるだけで遥か先の出来事だとばかり思っていたのだ。そうでなければ、先日の志摩の出張の話にこんなに動揺なぞしなかっただろう。まだ若いから坊の事は俺等に任せて、お前は世間を見てこいと柔造に言われて素直に従ったこいつに裏切られたような気分を味わう事もなかっただろう。もっとましになって帰ってきいや、と茶化すことも出来なくて、今こうして夜行列車で旅立つ志摩の見送りをすることになった。

「いつも静かやけど、今日の坊はほんまに静かですなぁ」

 暢気にそう言う志摩にいつもと変わらんやろ、と素っ気なく言ってその背から目を逸らした。そうやろか〜?なんて間延びした声に苛々する。やり場のない怒りを押し殺そうと黙り込めば、志摩も口を閉ざした。話さなきゃいけない事はたくさんあるのに、なかなか口が上手く動かない。そういえばもともと自分は臆病者で口下手な人間であった。そんなこと今更考えても遅いやろ阿呆、と心の中で悪態を付き足元の石を蹴飛ばすと道の脇にある排水溝にカランと音を立てて消えていった。見事に入ったな、なんてぼーっと考えて再び志摩の背中に目を向けた。

(こいつもこの石ころみたいに、俺の前から消えるんやな)

 駅はすぐそこだった。