殺人鬼なミナマツ | ナノ
※ 13日の金曜日ネタ。マツバさんが殺人鬼なパロ。死リアス。








 嗚呼、そうなのだ。彼はとても悲しい生き物なのだ。悲しくて、残酷で、そして、とても美しい。
「ミナキくん、」
 トン、と肩を叩かれて勢いよく振り返ると、不気味な程不自然な笑顔でマツバが終わったよと笑った。
「そうか」
 終わったか、と呟く。噛み締めるようにもう一度。また一つ、命が終わったのか。そして、終わるのだ、また一つ。一つずつ、この世界は終わりを告げていくのだ。
 人は彼を『殺人鬼』と呼ぶ。
人を殺さなければ生きていけない、それは幼い頃からの必然、宿命。彼は血を、そして生を貪る為に一人漆黒の暗闇の中をさ迷うのだ。自らの衝動を抑えるために、そして、欲を満たすために。
 殺しは滑らか且つ鮮やか。ものの見事に人の急所を討ち抜き死へと誘う。その瞬間彼の目に映る赤い月がやけに美しくて、俺は目を奪われた。そんな俺を見て、彼は笑う。ああ見てしまったんだね。君には知られたくなかったのに。そう言って何よりも寂しげに、まるで彼の世界には彼そのものしか存在していないかのように、朧な月明かりの下に笑うのであった。
 そんな『人殺し』の場面を目の当たりにしても、不思議と恐怖は感じなかった。彼は自分が生きるにはこうしなくてはいけないのだと言った。人が生きる為に豚や牛を殺すように、自分は人を殺さないと生きていけないのだと。そう考えると僕も人間なのかな?その問い掛けは返せず仕舞いとなってしまいそうだ。俺は彼と生きる道を選んだ。昼間はスイクンを追い掛けると称し彼の殺人の痕跡を消した。難しい事ではなかった。あの都市の人間は彼の性を知っている協力者なのだから。彼等は彼を止めようとはしない、否、止めることなど出来なかったのだ。だからジムリーダーという地位を与え、彼を監視し行動を把握する事で自らの安全を確保した。彼は皆優しいんだと笑うが、恐らく知っているだろう。彼等は彼を知っている。知って恐れている。そのなんと悲しいこと。そして人間という生き物の醜いこと。
(―…ならば彼の方が美しい。)

「お前は、美しいんだぜ。マツバ」
 反転する視界に映る彼の顔。ぽたりと額に落ちる涙に気付いて彼の頬へ手を伸ばせば、美しい顔が歪んでいる。いつも笑っている殺人鬼が泣いていた。人を殺めた後にに孤独と喪失感を感じさせる味のない笑顔を見せていても、彼が泣いた所は見た事がなかった。そんな彼の目がギラリと鈍く光る。嗚呼、人を殺したくてうずうずしている時の欲情した、あの目。その目に綺麗な涙が溜まっては落ち、繰り返し俺の顔を濡らしていく。お前は何をそんなに泣くんだ?問い掛けは空気へと混ざり、溶ける。

「駄目なんだ、ミナキくん、君が、好きなんだ、だから、もう、駄目だよ、今日は、駄目なんだ、好き、好きだよミナキくん、好きなのに、好きなのに、好きなのに、好きなのに、好き、」
「愛してる!大好きなんだ!ずっと一緒に居たいんだ!でも駄目なんだよ!止まらないんだ!君が好きで!好きで!好きで!好きなのに!どうして!」
 知っている。彼は幼い頃肉親を亡くした。
 俺は知っている。彼が殺したのだと。
 俺は知っていた。彼が俺を好きなのを。自分がいずれ彼の手にかかることを。
 それでもいい。いいんだぜマツバ。お前は間違っていない、それでいいんだ。お前はお前なのだから。そんなお前が、俺は好きなのだから。だからどうかその手を離さないでくれ。絞めるべきはそこじゃない。もっと上だぜ、マツバ。我慢しちゃあいけない。さあ、早くその冷たい手で俺の喉仏を押し潰せ。

「ミナキくん、死なないで、死なないで。僕を一人にしないで。」 グッとマツバの手に力が篭る。ボタボタと顔に落ちる温かい涙が心地好い。意識が遠退いていく。最後の力を振り絞って、声にならない声を発した。

 あいしてる。

 彼の頬に寄せた腕が堕ちた。赤い月を背に茫然と佇む彼は美しい。最後に絶景が見れたよ。彼が壊れた笑みを浮かべて首にキラリを光る金属を当て、引いた。再びボタボタと顔に落ちる雫はもう感覚すら感じない。そういえば今日は何日だったか。
 嗚呼、13日の金曜日だ。


 殺人鬼の『』は14日の土曜日には届かなかった。い月は去ってしまったようだ。















ついったでお世話になっている方が、「殺人鬼マツバさんなんてどうよ」的なツイートに乗っかって下さったので嬉しくて逝かれてみました。本当私逝かれた(あっちに/笑)
暗くて、意味がわからない、切ない話になってればいいな(願望)