「はーい、コーマ」 「ありがとうございます」
グランが俺にリンゴ飴を渡してくれた。今日は夏祭り。二人で浴衣を着て、遊びに来てみた。
「なんか、楽しいねー」 「俺はグランと一緒なら、何でも楽しいですけど」
照れるよぉ、と言いながら、グランはぐりぐりと肘を俺の脇腹に入れてくる。
「い、痛いです」 「あぁ、ごめんごめん」
脇腹をちょっと擦って、左手でリンゴ飴を持って、右手でグランの手を絡め取った。一瞬だけ驚いた顔をしたグランは、すぐに嬉しそうに笑う。緋色の髪がふわりと跳ねる。
「コーマって、大胆だよね」 「それは貴方が軽いから。俺のです、って表明しておかないと、すぐに何処かにいってしまいますからね」 「心配性。コーマがいるのに、どっか行くわけないじゃん」 「拐われるかもしれないでしょう」
ありえないよ、とグランはくしゃりと笑ったけれど、その笑顔にキュンとする人はこの世にごまんと居る。…だから、危ない。
「やっぱり、コーマが浴衣着ても…見慣れてないはずなのに、見慣れてる」 「それは漫画の読みすぎです」 「そう?」
そのうち羽織でも作って下さいよ、と言うと、部屋に戻ればあるよ、と返事をされた。何だか、陽花戸中のドレッドの彼も餌食になりそうだ。
「とにかく、似合うね、コーマ」 「グランの方がお似合いです。綺麗ですよ」 「ありがと」
キュッと抱き着いてきたグランを抱き締め返す。リンゴ飴がグランにくっつかないようにしながら、ギュッと。
「たぶん、だいぶ見られてるとおもいますけど」 「いいの。コーマは俺のだって表明しとかないと、かっこいいから誰かに奪われちゃうかもしれないでしょ?」 「ありえません」 「わかんないよ?」
俺の胸に顔を埋めたグランは、ムードのないことを呟いた。
「焼きそば食べたい」
ムードが無いですね、とグランの頭を苦笑いしながら撫でる。それから、身体を離して手を繋ぎ直した。
「焼きそば、買いに行きますか」 「うん!」
にこっと笑ったグランに食べかけのリンゴ飴を手渡して、二人で祭りの人混みに溶け込んだ。
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