泣きそうになって、ぐと唇を噛んだ。目の前には栗色の髪の後ろ姿。その背中に、俺を見て、と念じると、彼は振り返った。
「何ですか?グラン」
そう呼ばれたが、返事はしない。昔は“ヒロト”と呼んでくれていたのに。
「そっちじゃない方がいい」
「はい?」
「ねぇ、ヒロトって、呼んでよ」
もう一度、ねぇ、と言えば、彼は困ったように笑った。
「無理ですよ。貴方はもう“グラン”なんですから。俺は先に行きますよ」
くるっと身を翻してコーマは行ってしまった。俺は泣き崩れたり、叫び出したりするわけでもなく、ただ、立ち尽くしていた。