「今から、半径5b以内に入っちゃ駄目」 「…はい?」
無駄に付きまとってくるコーマがうっとおしくて仕方なかった。だから、この条件を提示してみたのだが、コーマは安々とその条件をのんでくれるような人では無かった。
「え、嫌です」 「俺も嫌だ」 「俺の何処がそんなに不満ですか」 「無駄に付きまとってくるのと、触ってくるのと、好きって言ってくるのと…あとは、その目が嫌」
目ですかっ!?と予想以上にコーマはノッてくれた。こういうのは嫌いじゃないんだけど…。とにかく、
「半径5b以内には近付かないこと」 「何でですか」 「前から言ってるでしょ?俺はコーマが嫌いなの」 「俺は好きなのに、ですか?」 「そう。だから」
早く離れて、と手で追い払う仕草をする。でも、コーマは俺から離れずに、最後に、とものすごい小さい独り言を呟いた。
「離れる対価は支払って下さい」
そう言って、コーマは俺の襟を掴んで引っ張る。突然の出来事にふらついたところを抱き寄せられ、一瞬だけ唇を重ねられた。
「ごちそうさまです」
コーマは妖艶に自分の唇を舌で舐める。それから、いつもの飄々とした笑顔で俺から遠ざかる。 頭の中では、今すぐ水道へ、と思っているのに、何故か体が動かない。せめて、手の甲で唇を拭くくらいはしようと思うのに…それすら出来ない。何で、もう。
「半径5b以内には近付かないこと。嫌いだから。それ以上近付かれると―」
―好きになっちゃうから。
自分にしか聞こえないくらいの声の大きさで呟いた。 チームのみんなには対等な立場に居なきゃいけないから、誰かを好きになっちゃいけないの。 でも、もう遅かった。
「コーマなんて、嫌い、嫌い、大っ嫌い。…でも、大好き」
わっと、小さく喚いてうずくまった。もう、後戻りはできない。
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