商店街にある細い路地の手前に停めてあった、派手なデコチャリを見つけた。その路地に入っていくと、予想通り、黒いフードをかぶった、桜色の頭が見えた。

「唐須」
「飛鷹…さん?」

いつもは強気なのに、俺の前でだけは、急に弱々しくなる。何度も何度も、こんな姿は彼奴等には見せられない、と俺に言っていた。

「何でこんなとこにいるんすか」
「アレを見つけた」

デコチャリを指差して言うと、唐須は苦笑いする。

「飛鷹さんに見つけてもらってよかった。…今だけ、抱き締めてくれませんか?」

突然の唐須の申し出に一瞬戸惑うが、断ることも出来ずに、その細い身体を正面から抱き締めた。ギュッと力を入れると、二人分の心音がトクントクンと、どんどん加速するのがわかる。

「…何が、あった?」
「なんもありませんよ」
「そうか…」

不器用な問い方しかできない自分がもどかしい。何かもっとましな言い方は無かったのか、と自分を責める。

「俺、飛鷹さんが戻って来てくれるって、信じてます」

ぎゅと肩に顔を埋められたまま言われて、どうしても返答に困る。

「俺、飛鷹さんが好きです」

さらに、そんなことを付け足されてしまい、思わず抱き締めた唐須を離してしまう。
離したことで、正面からしっかりと顔が見える。唐須はとても寂しそうに笑った。

「すいません、何か…。サッカー、頑張って下さい」

ちょこっと会釈をして、俺に背を向けた。何だか、すごく遠くに行ってしまう気がして呼び止める。

「幸人、」

普段は決して呼ばない、下の名前で呼んでみるが、とうの本人は一瞬足を止めただけで、すぐに自転車に跨がってしまった。
本当に唐須が、遠くへ行ってしまった気がして、少しだけ泣きそうになった。



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