ツンっと、コーマの背中を突っついた。俺の悪戯にも彼は一々反応してくれて、それから優しく抱き締めてくれる。 嗚呼、何て俺は幸せなんだろう…。 一度緩めた頬は中々元に戻らず、益々幸せに浸るだけ。
「グラン、」
彼が自分を呼んでいる。細めた目を開くと、彼は抱き締めてくれていたわけではなく、上から覗き込んでいただけだった。
「夢、だったんだ…」 「何寝惚けているんですか。とっくのとうに練習は始まっていますよ」
夢の幸せに浸る暇もなく、コーマにまくし立てられる。今日見た夢みたいなことが本当に起こったら…なんて、そんなことは、もう数えきれないほど思っている。
―好きだよ
そう俺が言っても、コーマは本気にしてくれない。『俺も好きですよ』と返してくるが、俺とは違う意味だ。
「好きだよ、コーマ」 「俺も好きですよ」
ほら、また。
「コーマとは違う意味なんだけど」 「そんなことを言っている暇があるのなら、手を動かして下さい。既に遅刻ですからね」
ロマンの欠片もない、と小さく呟いて、パジャマ代わりのTシャツを脱ぐ。 このまま彼を誘ってみたら、少しはその気になってくれるだろうか。 そんな馬鹿な考えはあっさり却下した。そんなことをしたって、コーマはその気にならないだろう。その前に、コーマは俺を恋愛対象として見ていない。だから、誘ってみたって無駄だ。
「何してるんですか。早く、着たらどうです?」 「ねぇ、コーマ」
俺のユニフォームを差し出しながら、コーマは、何ですか、と鬱陶しそうに聞き返した。
「コーマは俺のこと、どう思ってる?」
聞かなくても、解りきったこと。不毛な質問を投げ掛けた。きっと、彼は『俺の憧れです』とか、そんなことしか言わないだろう。
「俺の憧れです」
やっぱり…。解りきったことなハズなのに、ズンと重くのし掛かる。俺は“憧れ”とか“孤高”という言葉が大嫌いだ。それだけで対等では無くなる。
「うん。知ってた」 「聞いたのは貴方じゃないですか」 「そうだよ」 「…それ以上には、なれないんですよ。たかが騎士(ナイト)じゃ、いけないんです」 そう付け足して返って来ることも解っていた。堅苦しい考えは捨てればいいのに。
「解っていただけますか?」
そんなの解りたくないよ…。 心では、そう思った。だけど、それを言ってコーマを困らせたくない、という思いが率先してしまう。
「うん。解った」
その言葉がすんなり出た。 俺の答えを聞いたコーマは、満足そうにも、切なそうにも見える笑みを浮かべる。
「早く、準備して下さい。みんな待ってますから」
そう言って、彼は俺の部屋を出ていった。 解ってるよ、全部。 そうやってコーマは、自分の心が出そうになると、すぐに居なくなる。俺が一人で寂しい思いをしてても帰って来ない。 知ってるよ…知ってるよ、全部。
「だって、好きだから」
呟いた言葉は一人の部屋に虚しく響いた。 この想いが彼と交錯することは― ……決してない。
知ってるよ、好きだから
********** 企画サイト様『切恋。』に提出。
切ないんだか、何なんだか…という結果に終わってしまいました(泣) 最初夢だったのに、最後関係ない!という… でも、楽しく書かせていただけました!
参加させていただき、ありがとうございました!
10/06/06
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