「ごめん、待った?」 「いえ、今来たところです」
そんなベタな会話を繰り広げながら、いつものようにグランの手を取って歩き出した。しかし、いつもと違うところが一つ。ただでさえ、あんまりあたたかくはないグランの手がいつもに増して冷たい。
「手、冷たくないですか?」 「大丈夫」
全く噛み合わない返事に、何かある、とグランの表情を見れば、ちょっと焦っているようにも見えた。
「どうしたんですか?」 「ひ…ぅ…コーマぁぁぁぁッ!」
握っていた手を離して、グランは俺に抱き着いて、わんわん泣き出した。泣いてちゃ分からないんですけど…と呟きたいのを堪えて、なだめるように抱き締め返す。グランが泣いている理由に一つの考えが浮かんだが、あまりにも危険すぎて却下。だって、俺の目を盗んでグランを強姦なんて…俺が殺しかねない…ではなく、殺す。絶対に。
「落ち着きましたか?」 「うっ…ぅ、だい、じょぶ。ごめ、ね…」 「何でですか」
グランが謝ったことで、さっきの危ない考えがもう一度よみがえってきた。えっと、確かカッターナイフがペンケースに入ってた気が…。
「…コーマに、食べてもらいたくて、シャーベットを作ってたんだけど…失敗した」 「はい?」
ああ、そんなことか、と軽く流すところだった。俺の心配の度が超えすぎていただけで、と一安心したものの、グランが料理絡みで失敗する…なんて?
「シャーベットって、失敗するんですか?」 「……………………しないよ」
ですよねー、と笑いながら、俺はかばんをあさり始める。あ、あったあった、カッター。
「誰に犯されかけたんです?」 「え?…違う違う。ただ、その……」 「何ですか?」
カッターの刃をカタカタ出したりしまったりして、満面の笑みで聞き返した。犯人がわかれば、今すぐにでも刺しに行きますよ?
「補習だったの…」 「いってk…え?グランが…補習?」
ライトニングアクセルー、とか駆け出しそうだった足を止めて、犯されたと聞くよりも驚いた。それこそ、目がぱっちり開きそうになるくらい。何でもできるグランが補習なんて…全く。
「何で補習なんか…」 「誰のせいだと思ってるの?」 「え?誰って…?」 「毎日毎日俺だって寝不足なんだよ!?授業中に寝ちゃって、それで…」 「あーもう、可愛いですねっ!今日は俺の補習も受けて下さいよ?」
持ってたカッターをかばんにしまって、グランを抱き締めた。悪いことしたの、俺でしたか。
「ひどくしないでね?」 「分かりませんよ。その時ある“モノ”と“気分”によって、ですかね」 「えー?あんまりヤると、腰立たなくなる」 「よかったですねー、明日はちょうど休みです」
それでもやめてよね、とムッとして言ったグランの額にキスを落として、もう一度手を繋ぎ直した。
「あったまりましたね、手」 「おかげさまで」
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